兵役逃れロシア人がタイで急増中… 滞在できなくなり物乞い、ロシアンマフィアに頼んで偽装結婚も

国際

  • ブックマーク

Advertisement

「戦争難民」と物乞い

 しかしタイにやってくるのは富裕層だけではない。兵役から必死に逃げようとする人々もいる。

 現地報道によると、タイの警察は今年の1月3日、36歳と32歳のロシア人を拘束した。ふたりは入国から1ヵ月ほどがたっていたが滞在費がなくなり、公園で「戦争難民」とタイ語で書かれた紙を手に物乞いをしていたという。食費や帰国の航空券代を得ようとしていたようだ。

 4月27日にはプーケットのショッピングモールの屋上から、ひとりの男性が飛び降り自殺し、商店脇で遺体が発見された。32歳のロシア人だった。

 ともに兵役を逃れるためにタイにやってきたロシア人の可能性が高いといわれる。

暗躍するロシアンマフィア

 帰りたくないロシア人たちはさまざまな方法でタイでの滞在を延ばそうとする。タイには長期滞在が可能なタイランドエリートというビザやロングステイビザがある。しかし費用は高額。タイランドエリートは約240万円から800万円が必要で、ロングステイビザは約320万円以上の預金がタイの銀行になくてはならない。しかしこれらのビザは長期滞在は可能だが、働くことはできず、不動産を買うこともできない。ロシア人の多くが狙うのはタイ人との偽装結婚だという。そこで暗躍するのが、以前からタイにいたロシアンマフィアだ。彼らはパタヤを拠点にしている。

 その手口を、パタヤで飲食店を経営するCさん(61)がこう説明する。

「偽装結婚にはかなりの金がかかる。警察への賄賂を含めて、500万円ぐらいは必要。マフィアは帰国したくないロシア人に声をかけ、その資金を稼ぐために麻薬の運び屋や密売をさせるんです。タイとロシアの間を行き来させ、麻薬を運ばせる。タイ人と結婚できたら、ロシアに帰らなくてもいいって騙してね。別の組織は、彼らを東欧に送り、東欧の若い女性を騙してタイに連れてくるリクルートの仕事をさせる。タイにきた女性は売春目的の飲食店で働かされるんです」

 パタヤ、プーケット、サムイ島などでは、マフィアがかかわるトラブルが絶えない。リゾートエリアのカフェや水着姿の女性が躍るビアバーでは、ロシア人がロシア人グループに襲われ、現金のみならず、送金を強要され仮想通貨(暗号資産)が奪われる事件がしばしば起きている。

 今年の3月、パタヤのカフェで、ひとりのロシア人Eさんが6人グループに囲まれ、暴行を受ける事件が起きた。現地の報道によると、6人グループは180万バーツ(約720万円)の仮想通貨を奪い逃走したという。彼らは皆、麻薬の密売にかかわっていて、その金銭トラブルだったようだ。

 前出のWさんはこういう。

「ウクライナ侵攻でロシアの劣勢が伝わると、バタフライ効果を生んで、プーケットやパタヤの物件価格があがる。コロナ禍の損失を、ウクライナ侵攻が埋めてくれているといういびつな構図がいまのプーケットやパタヤなんです」

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。