欲望に忠実な毒舌ヒロインが痛快な「波よ聞いてくれ」 “脱ゆるふわ”の小芝風花に注目

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 友人に悪口の天才がいる。その発想力・語彙(ごい)力・表現力が秀逸で、「あいつ、〇〇したほうがいい」という提案型の悪口は失笑必至。もちろん、当の本人には絶対に言わない陰口なのだが、語録に残しておきたいほど。

 そんな彼女を彷彿とさせるヒロイン・鼓田(こだ)ミナレが、縦横無尽にどつきまくってしゃべり倒す「波よ聞いてくれ」は今期一番の好みだ。

 主演は金髪&マットな赤の口紅で気合の入った小芝風花。ゆるふわイメージを封印し、ヤンキーでも下品でもなく、欲望に忠実な女を演じている。絶妙な例えと言い回し、理路整然とした罵詈雑言を連射できる賢さ、相手が誰であろうと遠慮も忖度もせずに本音をぶつける強さ。優等生でも変人でも天才でもなく、ましてや恵まれた家庭環境でもない、ただただ口が達者で物おじしないヒロインは、今のドラマ界で稀有(けう)な存在。

 ミナレはカレー屋のアルバイトだが、美しい男が好きな店長(西村瑞樹)とは反りが合わない。ある晩、バーで元彼の愚痴を吐き散らかしていたところ、ラジオ局のチーフディレクター・麻藤(北村一輝)に隠し録りされ、翌日のラジオで放送されてしまう。これを機にラジオパーソナリティーとしてデビューするハメに。

 若い女性がおじさんに気に入られ、転機を迎えるシンデレラストーリー、ではない。確かに運はいいが、ミナレには背に腹は代えられない事情が。バイトはクビを宣告され、住んでいた家は追い出され(腐った肉の放置で階下住民に大迷惑、修繕費を請求されて)、生活は崖っぷち。しかも麻藤は炎上上等の姿勢で、番組内容をミナレに丸投げ、またはムチャブリ。罪悪感や遠慮が一切ないミナレは、事件現場の実況中継もアドレナリン出しまくりで意気揚々とこなしちゃう。文句も言うが、やることはやる。使役や隷従ではないヒロインには、胸がすくんだよね。

 ラジオ局内でも、放送作家(小市慢太郎)やAD(原菜乃華)は、ミナレの「粗削りだが天性の才能」を認めている。人気パーソナリティーのまどか(平野綾)は型破りなミナレを敵視するが、嫌いではないことがわかる。むしろ好き。めっちゃ好き。

 ミナレとまどかのディスり合戦がおかしくて。婉曲表現がいつの間にか礼儀となった令和において、このふたりの丁々発止は貴重。美しく透き通った声でミナレを面罵しつつ、カップ酒を瞬時に飲み干して酔っ払うまどかが最高すぎて震えた(平野が超適役。脳内では秀島史香版カップ酒姐さんも妄想して楽しんでいる)。

 ミナレに恋をしているカレー屋従業員・中原(片寄涼太)の、純で鈍な割に適宜つっこむ関係性もいいし、ワケアリで流れ着いたマキエ(中村ゆりか)もミナレに魅せられたクチ。ミナレが周囲の人間を巻き込んで刺激して、モチベーションと自己肯定感を与えていくのよ。

 時折混じる妄想展開のラジオ台本など、オチが予測不能というのも、テレ朝では珍しい(あ、これは嫌味)。原作漫画の言葉の力に感嘆しつつ、小芝の「若手女優に強いられるゆるふわの呪い」からの脱皮も祝いたい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年6月8日号掲載

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