カラス研究者・松原始が語るスリルたっぷりの調査現場 絶対に欠かせない“相棒”とは?

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カラスの声から巣の位置を探る

 東京大学総合研究博物館・特任准教授で、カラスの生態、行動と進化をテーマに研究する松原始さん。『カラスの教科書』などのヒット作を著し、日々カラスを追いかけ続ける彼が、最も頼りにしている探索の相棒とは、一体?

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 私は博物館勤めの傍ら、カラスを研究している。そのために野外調査に行くこともよくある。カラスは街にだけいるわけではない。最近調べているのは、むしろ山の中のカラスである。

 カラスの巣を探して林道をたどる。今日は舗装道路だが、未舗装の林道を行くこともある。荷物はそう多くもないが、双眼鏡を首から下げ、デイパックを背負い、三脚にセットした望遠鏡を担いでの道のりだ。ホオジロのさえずりを聞きながら初夏の山を歩き続けていると、足が熱を持ってくる。

 狙いをつけていたあたりでカラスの声が聞こえた。雛が餌をねだるダミ声だ。とっさに路面を蹴って走る。カーブの先で停止。靴底が地面をかんでザッと音を立てる。声の方向からすると、この植林の中。そう遠くない。伐採跡の奥か。

 カラスが飛ぶのが見えた。黙ったまま、遠回りするように林内を飛んで行く。こういう、わざとらしく黙り込んで行動している時は、だいたい巣が近い。

 伐採跡に踏み込む。赤土を踏みしめると、刻みの深い靴跡が残った。草の間に隠れた間伐材を避け、踏み越え、なるべく足音を殺しながら先へ進む。どうやったって野生動物であるカラスには気付かれてしまうが、必要以上に警戒させることはない。

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