カラス研究者・松原始が語るスリルたっぷりの調査現場 絶対に欠かせない“相棒”とは?

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調査の相棒

 物音が聞こえるたびにピタリと足を止めながら、猫足でカラスの気配を探す。あの5本ほど並んだスギが怪しい。カラスの巣はしばしば、スギの高い位置に隠されている。下からまっすぐ見通せることは滅多になく、周囲をぐるぐる回って、「枝の隙間を通してチラッと見える」という角度を探さなくてはいけない。

 植林地の地形は案外険しい。もちろん崖はないのだが、相当な急斜面でもスギは生えている。地面にはスギの落ち葉や枝が積もり、そこに低灌木も生え、時にはイバラの藪まである。薄暗い林地の中、斜面を上がったり降りたり、藪をくぐったり、沢を踏み越えたり、急斜面を危なっかしく横切ったりを繰り返す。足元が滑りそうになるのを、母指球あたりでグイと踏ん張って支える。地面と並行に靴底を置き、足裏全体を接地させて面で支えるのが基本だが、時には靴底のエッジを食い込ませて止めることもある。

 あれか? 斜面の途中に危なっかしく踏みとどまり、下生えを透かして見上げたスギのてっぺん近くに、黒く丸く、ボサボサと枝がたまったところが見えた。双眼鏡で確かめると、間違いなくカラスの巣だった。

 こういう調査の相棒はいくつもある。双眼鏡、デイパック、コンパス……だが、一番の相棒は道路を歩き、走り、林道をたどり、斜面を登り、藪に踏み込む間、黙々と足元を支えてくれる、軽トレッキングシューズだ。何度も代替わりしたが、今履いているのはコロンビア・セイバー4ロウ。防水性もあり、スニーカーよりタフで、登山靴より動きやすい。雑食であることに特化し、あらゆる環境に適応できるカラスのように、大概の状況で私の足になってくれる相棒である。

松原 始(まつばら・はじめ)
1969年奈良県生まれ。東京大学総合研究博物館・特任准教授。専門は動物行動学。研究テーマはカラスの生態、行動と進化。著書に『カラスの教科書』など。

デイリー新潮編集部

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