木で高層ビルを造って林業と地方を再生させる――隅 修三(ウッド・チェンジ協議会会長)【佐藤優の頂上対決】

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カーボンクレジット

佐藤 ただ、隅会長の活動もあり、林業への関心はかなり高まっているのではないでしょうか。というのは、外務省のロシア担当の中堅が退職して林業に転じたんですよ。面識はないのですが、サハリン、モスクワで駐在経験のある亀山陽司さんは、2020年に外務省を辞め、北海道立北の森づくり専門学院の第1期生となって、いま北海道旭川市の隣にある当麻町で木を切っています。

 それはうれしいお話ですね。

佐藤 ロシア研究も続けていて、昨年『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』という本を出しています。彼は、林業に未来があると考えている。その彼が一つのロールモデルになれば、林業の世界に入る人も増えていくと思います。

 そうあってほしいですね。林業をめぐる動きが出てきているのは確かで、投資をしても大丈夫だと、民間のお金が入り始めているんですね。

佐藤 補助金以外のお金が回り始めたのですね。

 いつまでも国のお金をあてにするわけにはいかない。それは不健全ですし、国家財政には限りがあります。ただ林業も製材加工業者もほとんどが中小の事業者です。だからなかなか投資資金が回りにくかった。その中で、追い風になっているのが「カーボンクレジット」です。

佐藤 CO2排出権取引ですね。

 はい。林や森は、二酸化炭素を吸ってくれます。その量を売買するわけですね。それが民間のお金が入ってくるきっかけになっている。

佐藤 そうなると、林業だけの枠組みではなくなってきますね。カーボンニュートラルの仕組みや法律を、どうお金と関連づけていくかうまく設計していかないといけない。

 その通りです。協議会には住友林業、三井不動産、三菱地所といった大きな企業にも参加いただいています。みなさん、カーボンニュートラルの風が吹いていることを意識され、大きな視点から投資されるようになっています。

佐藤 将来的には日本の木材を輸出するという可能性もありますか。

 考えられます。ご存じのようにアフリカからインドなどの南アジアまでの地域には、立派な木が育っている場所があまりないんですね。木は日本のナチュラルリソース(天然資源)です。だから中国は、日本のヒノキなどをかなり高い値段でも買ってくれる。そして太平洋を越えて北米大陸に行くと、カナダには木がたっぷりあり、さらに大西洋を越えれば、北欧の木がある。

佐藤 つまり競争相手は、カナダと北欧諸国になる。

 輸出するなら、それらの国と価格競争を行うことになります。でもそれを勝ち抜いていくだけのインフラは、今の日本にはまったくありません。ですから、まずは木造高層ビルの需要を作り出して林業を復活させ、サプライチェーンを整備する。そうすれば、地方で若者が働く場所が生まれ、地方創生につながる一方、エネルギーの循環も経済の循環も生まれます。

佐藤 是非とも実現していただきたいですね。隅会長は、漫画家の弘兼憲史さんの中学時代の同級生で、あの「島耕作シリーズ」は、隅会長の経歴が参考にされていると聞きました。この木への取り組みも、いい題材になるのではないですか。

 まだこの話は彼とさほどしていませんが、いずれ漫画に取り入れてほしいとは思っていますね(笑)。

隅 修三(すみしゅうぞう) ウッド・チェンジ協議会会長
1947年山口県生まれ。早稲田大学理工学部卒。70年東京海上火災保険入社。ロンドン首席駐在員、海外本部部長などを経て2002年に常務、05年専務となり、07年に社長。08年に持株会社東京海上ホールディンングス社長、13年に同会長となる。16年より東京海上日動火災保険相談役。21年ウッド・チェンジ協議会会長に就任。

週刊新潮 2023年5月25日号掲載

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