日本が欧州のバイオマス発電をそのまま真似できない理由

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 SDGsといった言葉がやたらと使われるようになり、以前にもまして再生可能エネルギーの可能性が取りざたされることが多くなった。そのうちの一つがバイオマス発電である。

 石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料ではなく、木などを資源として利用するシステムのことを指す。すでに欧州では本格的に活用しているところも多い。

 住宅用の木材などには利用できないような木を有効活用して、エネルギー源として使えるのならば、資源を無駄にすることなく、結構な話のようにも思えるだろう。国土の約7割が森林である我が国でもどんどん積極的に推進すればよさそうなものだが、実はことのほか日本においてはバイオマスのエネルギー利用は進んでいない。

 なぜか。

ヨーロッパは、日本とは“森も木も別物”

森林で日本は蘇る―林業の瓦解を食い止めよ―』の著者で、林業政策に詳しい白井裕子・慶應義塾大学准教授はその理由をこう解説する。

「たしかに欧州ではバイオマスが盛んなところもあります。しかし、そのコピーが日本で通用するわけではありません。

 自然環境、生活様式、そして木そのものも異なるのです。

 木材の性質をはかる基準の一つが含水率です。カリカリに乾燥させた状態の木の重さを分母として、乾燥前に含まれていた水分量を分子とする。この含水率が、日本の杉では200%を超えることすらあります。

 日本の森林に入って、みずみずしさを味わったことがある方は多いでしょう。これは高温多湿の日本の森林の特徴です。

 一方、ドイツやフランスの森はカラッとしています。ヨーロッパの森では、近年、気温上昇と乾燥により、大規模火災が発生しています。日本でも山火事は発生します。しかし欧米のような大災害には至りません。日本とは森も木も別物なのです。

 水分をたっぷり含んだ日本の杉をバイオマスのエネルギー源とするには、乾燥させなければならない。そのために別のエネルギーが必要になってしまうのです」

 これに加えて、もともとのインフラの違いがあるという。

ヨーロッパの冬を温める“温水”

「ヨーロッパでは、バイオマスで得るのは電力だけではなく『熱』だという考えが定着してきました。そもそもオーストリアで消費されるエネルギーは、電力より熱の方が多いのです。このため『熱』を有効活用するインフラがすでにある程度存在しています。

 日本人は再生可能エネルギーというと電力を想起します。しかし、ヨーロッパではもともと熱の需要が大きく、バイオマスから得るエネルギーは、電力というより熱の利用、温水を使うことに意味があるのです。伝統的に温水を使う暖房というものがあり、温水が走る管が建物に張り巡らされているような施設が珍しくありません。冬は寒く、長いですし、戸建てもセントラルヒーティングが多く、その燃料をバイオマスに替えることができます。

 あるドイツの製材所では、製材後に出る残りの木をバイオマスとして有効活用し、近くの病院に温水を送っていました。病院で使う温水を作る燃料を重油からバイオマスに替えたのです。燃料をバイオマスに替えても、使えるインフラがある程度、存在しているのです。

 このように昔から暖房に使っていた温水(熱)を作る燃料を、化石燃料からバイオマスに転換できれば、意味は大きいでしょう」

エネルギーを使う現場から考える必要がある

 となると、日本ではこういう形のバイオマス活用には意味がないということなのか。

「日本で持続可能なバイオマス活用を考えるならば、エネルギーを使う現場から考える必要があります。

 電力のみならず温水を有効活用するとなると、大規模化の条件が揃う所は限定的です。あまりに大量の温水が発生したところで、使い道に困るからです。また、林業でも、一番かさむのは、木を運ぶコストです。森林から遠く離れた大規模施設に運ぶだけで、コストも環境負荷も増大します。

 こう考えると、山里の村や町に中小の熱(温水)併給発電所を作るのならば、まだ意味があると言えるでしょう。うまくいけば山の麓にあるような小さな町では、エネルギーをある程度自前で調達できるようになるかもしれません。

 ただ、残念ながら実態はかけ離れていて、全国に大型プラントが作られる傾向にあります。国内では賄えないからと、外国から原料を輸入しているところもあると聞きます。わざわざエネルギーを消費して資源を輸入して、海外の国々と別の環境問題をひき起こす心配も出てきます。資源の有効活用とはほど遠いのではないでしょうか」

デイリー新潮編集部

2021年7月1日掲載

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