木で高層ビルを造って林業と地方を再生させる――隅 修三(ウッド・チェンジ協議会会長)【佐藤優の頂上対決】

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コストなどの課題

佐藤 では、いまは木造高層ビル建設がかなり順調に滑り出しているのですね。

 いえいえ、まだ数多くの課題が残っています。まずはコストです。高層ビルを木で造ろうとすると、値段が跳ね上がる。

佐藤 どのくらい違ってくるのですか。

 どれだけ木材を使うかにもよりますが、15%、場合によっては20%くらい高くなるかもしれません。

佐藤 高層ビルとなると建築費は巨額でしょうから、数%でも億単位になりますね。

 それからCLTやLVLを作ることができる製材工場がほとんどありません。現在、CLTを作れるのは、岡山県真庭市の銘建工業など、10カ所に満たない。それをいま、どんどん増やしているところです。

佐藤 工場も技術も必要になりますから、一朝一夕にはできない。

 また建築家にしても、これまでCLTをあまり知らなかったんですよ。木造建築というと、基本的には二級建築士が設計します。高層ビルが設計できる一級建築士のカリキュラムには、ほとんど木造の話がありません。だから木造高層ビルという発想自体がないのです。

佐藤 それを考えると、隈研吾さんは偉大ですね。

 そうなんです。近年、木造建築に再び注目が集まったのは、高知県の前知事である尾崎正直さんによるところが大きい。高知県は日本一の森林県で、その84%が森林です。私も尾崎さんと高知の山をずいぶん見て回りましたが、その尾崎さんは隈さんを校長に招いて、高知県立林業大学校を作りました。

佐藤 隈さんもこのコーナーに出ていただきましたが、転機になったのは、高知県檮原町(ゆすはらちょう)でたくさんの木造建築物を手がけたことでした。

 隈さんは、木造のビルは耐震強度を測るのが難しく、かつてはそのコストも10倍くらいかかると言っていました。だから設計という面でも、木造ビル建設の環境は整っていない。

佐藤 そこを隅会長は突破してきたわけですね。

 そうした建築設計上の問題とともに、山林の問題もあります。山は所有者がバラバラな上、ちゃんと区分けされていない場所も多い。相続などで地主がわからないというケースもあります。

佐藤 荒れている場所は、ほとんどそうでしょうね。

 そして放って置かれた土地は、木を切り出す林道がありません。林道は整備せずにいると、1年もたたないうちに元に戻ってしまいます。林道整備には膨大なお金がかかるのです。

佐藤 その近隣に住んでいない地主なら、お金をかけるはずもない。

 だから間伐もしておらず、木々が密集して立っている状態になっています。日本の森林面積2500万ヘクタールのうち1千万ヘクタールは人工林で、その大半は戦後の大規模植林によるものです。すでに50年を過ぎていますから、伐採して新しい木に植え替える必要があります。

佐藤 山林そのものから整備せねばならないのですね。

 伐採と植林による森林のサイクルを作るには、やはり需要の拡大が不可欠です。いまある木材のサプライチェーンは木造住宅用のものだけです。間伐材でも集成材の工場なら、使える部分があります。そして使えない部分は端材としてチップにし、燃料にする。先に触れた真庭市では、そうした動きが街ぐるみで進められています。

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