木で高層ビルを造って林業と地方を再生させる――隅 修三(ウッド・チェンジ協議会会長)【佐藤優の頂上対決】

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 日本は国土の67%を森林が占める世界有数の「森林大国」である。だが林業は外国産木材に押されて衰退の一途をたどり、伐採時期を迎えた戦後の大植林も放置されたままだ。こうした現状に一石を投じる取り組みがある。国産木材で高層ビルを造り、需要拡大を図るのだという。果たしてこの試みは成功するか。

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佐藤 隅会長は、東京海上ホールディングスの社長、会長を歴任され、さらには経済同友会の副代表幹事、日本経済団体連合会副会長も務められた日本の財界の重鎮です。その方が現在、民間建築物における国産木材の利用促進を図る団体で会長をされているとは知りませんでした。

 ウッド・チェンジ協議会は林野庁の主導のもと、2021年9月に発足しました。木材の供給事業者や建築事業者、行政、研究機関、経済団体など、川上から川下までの幅広い関係者が参画し、木造建築の経済効果や木の効用に関する研究、広報活動、木造化モデルの検討などを、五つのグループを作って進めています。

佐藤 それぞれ、どんなグループなのですか。

 木材利用環境整備、情報発信、低層小規模建築物、中規模ビル、高層ビルの五つです。それぞれの観点から、国産木材の利用促進に向けての活動を行っています。

佐藤 この団体の会長になられたのには、どんな経緯があったのでしょうか。

 国産木材の民間利用については、もうずいぶん前から取り組んでいるんですよ。出発点は、「地方創生」でした。2014年に第2次安倍改造内閣が地方創生を打ち出しますが、その前から私は、政治評論家の田中直毅さんが作っておられた国際公共政策研究センターというシンクタンクの地方創生の研究会で座長を務めていたんです。

佐藤 田中さんは、同センターの理事長を務められていた方ですね。

 ええ、その田中さんとはワシントンの日本大使館のレセプションで初めてお会いし、日本の地方をめぐる話で意気投合しました。地方が元気でない国家は健全な国家とはいえないというのが、二人の共通認識でした。

佐藤 海外だと、日本の問題点がはっきりと見えて、話が深まることがありますね。

 そして日本に帰国したら、田中さんからシンクタンクに地方を元気にする研究会を作りたいから座長になってほしい、と頼まれたのですよ。

佐藤 いつのことですか。

 安倍政権が地方創生を掲げる1年ほど前ですね。その後、メンバーとともに、北海道から九州までずいぶん地方を回ったんです。

佐藤 ご多忙な日々の中で、実際に視察して回られたのですか。

 ええ。地方創生というと、最初に思いつくのは農業ですよね。それから工場の誘致やシャッター街化した街並みの再生、そして教育と、みなさん、いろいろなことに取り組まれています。でもその中で、誰も議論しないのが、林業と漁業でした。

佐藤 漁業はともかく、林業はなかなかビジネスとして成り立ちにくいですからね。

 その通りで、地方創生では触れられていない分野でした。けれども私は、いまは山口県岩国市に編入された玖珂(くが)郡錦町の出身で、幼い頃は木に囲まれて暮らしてきました。山の中が人生のスタートでしたので、林業が廃れていくことが何とも心苦しかったんですよ。そこで何とか林業を復活させられないかと考え、この問題に取り組むことにしたんです。

佐藤 林業は忘れ去られつつある産業と言っていいかもしれません。

 そこで林業関係者と話してみると、造林や製材業を営む人も担当する県の職員も、補助金の話ばかりなんですね。いまは働く人もいなくなり、荒れ果てて林道もない。外材にはとてもかなわないし、そもそも日本の山は急峻で仕事がやりにくい――だから日本の林業は補助金なしには立ち行きません、というわけです。

佐藤 北海道でかなりの山林を持っている人でも、補助金があるからビジネスになるのだと言っていました。

 「この地域の産業は何ですか」と問えば「公共工事です」と返事が来るところもありましたが、いつまでも官に頼っているわけにはいきません。

佐藤 隅会長が現れるまで、それを問題視する人もいなかったわけですね。

 再興のための具体策を探ってみれば、どうやって造林や植林をするかとか、どの山の木を切ってどう運ぶか、どこで製材・加工するかといった話に終始し、そこにまったく出てこない言葉が一つあったんです。

佐藤 何でしょうか。

 「需要」です。需要をどう作るかについて、誰も考えていない。私は経済、ビジネスの世界で仕事をしてきましたから、その視点がまったくないのが不思議でした。需要がない限りは、どんないい木材があっても意味がありません。だから私は、何とか日本で国産木材を使う大きな需要を作れないかと考えたんです。

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