1時間座っているだけで余命が22分削られる?  日本人は世界一「座りすぎ」専門家が指摘

ドクター新潮 ライフ

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血流速度が70%低下

 このように、世代を問わず「座りすぎ」が私たちの健康を大きく損なっていることは明白な事実です。では、なぜ座りすぎは不健康をもたらすのでしょうか。

 人間の筋肉の70%は下半身に集中しています。そして座位は、この70%の筋肉を使わないどころか、先ほど説明したように圧迫するため、座ってから5分もすると血流速度が急激に下がり、30分座り続けると血流速度は70%も低下してしまいます。

 その結果、代謝機能が下がって太りやすくなり、血液もドロドロになるので、あらゆる生活習慣病を誘発してしまう。高血圧、糖尿病、心筋梗塞、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)、脳梗塞、ある種のがん、さらには脳への血流も滞るため認知機能まで低下する……。

 このように、座りすぎは万病の元であり、WHOが警鐘を鳴らすに至ったほどの「健康被害」をもたらしているのです。

 その弊害多き座りすぎは、“現代病”ともいえます。1960年代、イギリス人の週当たりの平均座位時間は30時間前後だったのに対し、2030年には50時間を超えると予想されています。

 とりわけ、労働時間の長い日本人は世界一座りすぎともいわれ、実際、国民健康・栄養調査報告(13年)によれば、平日、1日の3分の1にあたる8時間以上座っている日本人成人の割合は女性で33%、男性で38%にも達します。

 家にいれば座ったままリモコンでテレビのチャンネルを替えられ、職場でも、何もかもオンラインで済むのでデスクから離れることなく座りっぱなし。座りすぎによる健康阻害リスクは、現代人が手に入れた「便利さ」とトレードオフの関係にあるのです。

健康をもたらすのはエクササイズだけではない

 振り返ると、世界で最初に座りすぎの問題が注目されたのは1953年のことでした。世界五大医学誌に数えられる「Lancet」にひとつの論文が掲載されます。英国ロンドンの2階建てバスの運転手と車掌とで心血管疾患の発症率を比較したところ、車掌の発症率は運転手の2分の1であると報告されたのです。運転手は座りっぱなしであるのに対し、車掌は客からお金を徴収したり、切符を切ったりするために1階と2階を行ったり来たりする。その差が如実に表れたわけです。

 しかし、この時は運転手よりも車掌、つまり「座りすぎ」よりも「動くこと」のほうに多く注目が集まり、アメリカをはじめとして各国でエクササイズ、フィットネスブームへとつながっていきました。

 その後、95年ごろにパラダイムシフトが起きます。ちょうどWindows95が発売されて「便利さ」が飛躍的に増し、仕事の仕方が劇的に変化した時期と重なるのですが、具体的には「エクササイズ」から「フィジカル・アクティビティー」へと世界の潮流は変化していきました。

 エクササイズは、レジャータイムにジムなどで体を動かすイメージです。一方、フィジカル・アクティビティーは、明確に意識を持ってジムに通うことなどばかりにとらわれるのではなく、移動の局面においても仕事場でも、どんな場面でもいいのでとにかく体を動かそうという考え方です。エネルギーを消費する点においては、ジムで鍛えるのも、日常生活で足腰を動かすのも同じなのだから、健康はなにもエクササイズだけによってもたらされるものではないというわけです。

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