寝たきり老人を激減させた「奇跡の村」 102歳医師が明かす「死ぬまで元気」の秘訣

ドクター新潮 ライフ

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「面倒を見る」と言うのに、実際は見ない日本人

 人は3度死ぬ、と疋田さんは言う。退職して社会に貢献できなくなる「社会死」、やがて寝たきりになるなど自分で身の回りの世話ができなくなる「生活死」、そして心臓が止まる「生物死」だ。人生50年といわれた昔なら、「社会死」のあと日を置かずに「生活死」と「生物死」がやってきたが、今は寿命が長くなったおかげで「生活死」から「生物死」まで5年10年は当たり前になった。当時はまだ介護保険がない時代だ。この間に寝たきりになったら誰が世話するのだろう。

 こんな調査データがあるという。親の面倒を最後まで見ますかと、日、英、独の三カ国で質問すると、英独で「はい」と答えたのは2人に1人だったが、日本は4人に3人もいた。ところが、それを実行したかどうかを調査すると、英独はどちらも2人に1人だったのに、日本は期待値とは逆で5人に1人しかいなかったのだ。

 介護の問題が噴出するのは、介護が長期にわたるからだが、では寝たきりの親を、家族はどれぐらいの期間なら世話ができるのだろうか。疋田さんが住民に聞き取り調査をすると、どんな家族でも1カ月未満なら世話してくれるが、2カ月3カ月となると、死んでくれとは言わないまでも粗末に扱われやすくなるという結果となった。理想的には1週間がいい。つまりぽっくり死にたいというのは、死ぬ直前まで元気でいて、寝ついたら1週間くらいであの世に旅立ちたいということなのだ。96歳で死去した英国のエリザベス女王は、死の2日前にはトラス前首相の任命をし、医師を呼んだのは亡くなる当日だったそうだが、おそらく住民が望む死はそんなイメージなのだろう。

転倒して寝込むとすぐに「寝たきり」に

 住民の希望とは逆に、当時の佐賀町には寝たきり老人がたくさんいた。どうすれば寝たきりを減らせるのか。疋田さんによれば、人間には運動するための細胞と、臓器など生命を維持するための細胞があり、生命を維持する細胞はその個体が死ぬまでコンスタントに動くが、筋肉のような運動能力のある細胞は使われないと衰退していくそうだ。つまり、生命維持の細胞が元気なのに、運動能力のある細胞が萎縮した状態が寝たきりなのだという。

 人間の骨格を支えているのは筋肉である。これが衰えると、歩くときも十分に足が上がらず、つまずいて転びやすくなる。転倒で骨折して寝つけば、リハビリをしないと1週間で筋力の10~15%が低下する。3~5週間も寝込んだら半分になるというから、この時点でほぼ寝たきりだ。

「一部の細胞が死にかけて、ほかの細胞が元気だと苦しいのです。全部の細胞が同じように衰弱していったときに器官が止まれば、苦しむことがないわけです」

 これが満足死である。

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