農産物ではなく「知的財産」の輸出で活路を開け――窪田新之助(農業ジャーナリスト)【佐藤優の頂上対決】

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スマート農業の本質とは

佐藤 一方で農水省はスマート農業を推進しています。その実態はどうですか。

窪田 スマート農業という言葉は、どこかふわっとしていませんか。ロボットやAIを使って農業の生産性を上げていくといった漠たるイメージで、わかりやすいためか、よくロボットが取り上げられます。でもほんとうに農家に資するものなのかと思いますね。

佐藤 どういうことですか。

窪田 これまでの歴史の中でも「機械化貧乏」と言って、農家が経営規模に見合わない機械化をすると、借金を背負って身動きがとれなくなることが度々あったわけです。

佐藤 同じことが起きる可能性がある。

窪田 私は、スマート農業の本質はデータ化だと思います。そのデータには三つあります。まず作物の生体、生育状況のデータです。それから温度や湿度、雨量などの環境データ。そして肥料や農薬の散布時期、量など人が行ったことの管理データ。これらを数値化することで経営がどうなっているかを把握する。つまりスマート農業は「データによる経営の見える化」に尽きます。ロボット化はその後の話です。

佐藤 農業経営をきちんと行うための手段だということですね。これから農業主体が株式会社化していくなら不可欠です。

窪田 株式会社化は、今後の自然な流れです。高齢化した零細農家が消えた後は、農地の集約が行われ、雇用型経営になっていく。そこでは社会保険を完備した会社を作らないと人が入ってこないでしょう。

佐藤 農業経営者が生まれる一方、小作人ではない労働三権が保障された農業労働者が誕生する。

窪田 個々のプレーヤーには面白い人が出てきています。例えば、神戸でイチゴとトマトを栽培している東馬場農園という会社がそうです。ここは施設園芸の資材販売やコンサルティングをする会社にいた人が独立して作りました。技術がありますから、たくさんの収量があります。それだけでなく農業施設のメンテナンスをする集団を作り、仲間たちの農場の整備も行っているのが特徴です。

佐藤 農協は大離農時代後の新規参入や事業承継で、何か対策を講じているのですか。

窪田 農協も取り組んではいます。例えば佐賀県はキュウリをハウスで作るのが盛んですが、「JAさが」では、トレーニングファームを作ってキュウリの栽培をしたい人を2年かけて育てています。そこで栽培技術や経営方法を教える。それによって若い人たちが農業に入ってきている。

佐藤 農協はインフラがしっかりしていますから、やれることはある。

窪田 もちろん今後も産地において農協は欠かせない組織です。ただ、いま経営実態が非常によくないのです。農協には本業である農業関連の経済事業に共済事業、そして銀行事業があります。でも経済事業は北海道などを除いた約9割の都府県が赤字です。それを二つの金融事業で穴埋めしている。

佐藤 不健全ですね。

窪田 銀行事業は低金利でなかなか業績が期待できない中、共済事業への依存度が高まっています。農協は他の保険会社と違って生命保険と損害保険の双方が扱えますが、いまノルマを職員に課し、不正販売が横行しているのです。

佐藤 かんぽ生命の不正販売と同じことが起きている。

窪田 ええ。それに農協職員が「自爆」と言って、自ら不必要な保険に加入することまで行われている。多い人では年間400万円も保険料を払っているんですよ。

佐藤 収入の大半をつぎ込むことになりますね。

窪田 だから辞めていく人も多い。すると経済事業の方から人を引っ張ってくる。このため経済事業で、人が育たない環境が生まれています。

佐藤 これではなかなか新しい時代に対応できない。

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