チャットGPTで注目 中国政府が生成AIを極度に恐れる理由
中国政府は4月11日、精緻な文章や画像などのコンテンツを作り出す生成人工知能(AI)に関する規制案を発表した。社会主義体制の転覆や国家分裂の扇動などの内容を禁止し、当局の事前審査を義務付けるとしている。5月10日まで一般の意見を募集し、年内の発効を予定している。
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生成AIとはサンプルデータからコンテンツを自動的に生成する機械学習の手法のことだ。従来のAIとは異なり、少ないデータからコンテンツを生成する学習能力を備えていることが画期的な点だ。
米国のオープンAI社が「チャットGPT」を開発したことで生成AIは世界的に脚光を浴びるようになっているが、中国ではチャットGPTなど米国の生成AIの利用が規制されているようだ。欧米メディアによれば、チャットGPTに「中国の習近平国家主席は良い指導者か」と質問したところ、回答がなかったという。
中国企業も独自の生成AIの開発に取り組んでいる。
アリババグループ傘下のアリババクラウドは11日、「通義千問」という名の生成AIを開発したと発表した。通義千問は中国語と英語に対応し、文章の創作や人との対話ができるとされているが、今回の規制により政府の厳しい指導が及ぶことになる。
日本を始め世界各国で生成AIの教育現場での利用制限の動きが出ているが、中国政府の対応は明らかに過剰だ。なぜ生成AIをこれほどまでに恐れているのだろうか。
「中央社会工作部」の設置
3月の全国人民代表大会(全人代)では習近平氏は3期目の国家主席に選出され、政府から党への権力の移管がさらに進んだ。金融や科学技術、香港・マカオ問題を指揮する委員会や工作弁公室が党内に新たに設置され、党中央の直轄とされた。
国務院の形骸化が進み、習氏への権限集中がさらに加速した形だが、中国ウォッチャーの間で話題になっているのは、社会全体の思想工作を図る「中央社会工作部」の設置だ。
習氏が尊敬する毛沢東がかつて、中国共産党の公安機関「中央社会部」を党内のライバルを粛正するために利用した。新組織の名称がこれに酷似しており、眉をひそめる者が少なくないが、それ以上に重要なのは新組織の活動内容だ。
中央社会工作部は、とりわけ「新社会階層」を監視すると噂されている。
新社会階層とは中国経済の発展で新たに生み出された人々のことを指す。
中国ではここ数年、「霊活就業」という労働スタイルが広がっている(4月3日付東方新報)。直訳すると「柔軟な就業」となり、フレキシブルワークを意味する。企業など組織に属さず、自分で決めた仕事を自由な時間で働き、個人で収入を得る人々の総称だ。
具体的には、ネット通販オーナーから出張料理人、ペットの世話係、フードデリバリーの配達員など幅広い。中国政府によれば、柔軟な就業者は2億人の規模に上る。前述の新社会階層と重なる部分が多いだろう。
高度成長の時代が過ぎた中国では昨年の夏以降、若年層の失業率が記録的な高さとなっている。今年の大学卒業予定者は過去最高の1158万人に達しているが、企業が雇用する通常の就業形態が圧倒的に不足していることが主な要因だ。
中国政府も危機感を抱いており、全人代の今年の施政方針を示す「政府活動報告」で「就職」という言葉が十数回以上飛び出したほどだ。
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