尹錫悦、外交チームを突然「粛清」 レディー・ガガ?日韓関係?米韓首脳会談の直前、飛ぶ憶測

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 4月下旬の米韓首脳会談を目前に、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が外交・安保チームを入れ替えた。理由も説明されない突然の交代劇に「対日政策による亀裂か」「権力内部の勢力争いか」と憶測が乱れ飛ぶ。韓国観察者の鈴置高史氏は一連の騒ぎから「親米従中」路線の破綻を嗅ぎ取る。

50年来の知己「外交司令塔」を更迭

鈴置:3月29日、大統領室の金聖翰(キム・ソンハン)国家安保室長が辞意を表明しました。安保室長は外交・安全保障政策の司令塔で、韓国各紙は事実上の更迭と報じています。後任には趙太庸(チョ・テヨン)駐米大使が就任しました。

 4月26日、尹錫悦大統領は国賓としてワシントンに招かれ、米韓首脳会談に臨みます。金聖翰氏はその準備のため3月5日から訪米し、米政府と交渉に当たっていました。文字通り、突然の更迭だったのです。

 韓国では驚きが広がりました。金聖翰氏は学者出身ですが、外交通商部の第2次官を務め実務経験もあります。尹錫悦氏とは小学校の同級生で、50年来の知己。大統領選挙当時から外交指南役を果たし、尹錫悦政権の外交政策の骨格を作った人です。そんな側近が2022年5月の就任から1年もたたずして辞めさせられたのです。

――更迭の理由は?

鈴置:本人も明かしていませんし、大統領室も発表していません。さらに疑惑を掻き立てたのが、この更迭の直前、金聖翰室長の下で働いていた外交・安保チームの職業外交官が相次ぎ辞任していたことです。

 李文熙(イ・ムンヒ)外交秘書官と金一範(キム・イルボム)儀典秘書官です。李文熙氏は3月16日の日韓首脳会談に同席していましたが、同月27日に職を解かれました。金一範氏の辞任は日韓首脳会談直前、3月10日でした。

 大統領室――前政権までの言い方なら青瓦台――の外交・安保チームが粛清されたわけです。なお、国家安保室NO2の金泰孝(キム・テヒョ)次長は生き残りました。

「米韓歌手の合同公演」提案を無視

――「粛清」の原因はまったく明かされていないのですか?

鈴置:大統領室はメディアに対し「儀典上のミスが原因」とリークしました。以下です。

・「米韓首脳会談を機に韓国のガールズグループ、BLACKPINK(ブラックピンク)と米ポップスターのレディー・ガガの合同公演を開きたい」と1月以降、米国側から何度も申し入れがあった。J・バイデン(Joe Biden)大統領とジル(Jill)夫人の意向だった。
・しかし、安保室は米側に返答しなかったうえ、この情報をまったく上にあげなかった。大統領は3月上旬になってほかのルートから耳打ちされてようやく米側の打診を知った。

 朝鮮日報の「米大統領夫人が提案した『ブラックピンク』公演は放置されていた…金聖翰、事実上の更迭」(3月29日、韓国語版)などが一斉に報じました。

――本当に、それが原因なのでしょうか?

鈴置:韓国メディアもこの説明には納得していません。合同公演の打診を報告しなかったことが大統領を――あるいは大統領夫人を怒らせたとしても、安保室長まで辞めさせるのは、やり過ぎだからです。

 中央日報の「大統領の訪米1か月前に…安保室長が電撃辞退」(3月30日、韓国語版)がなぞ解きをしています。「本当の理由」として真っ先に挙げたのが「対日外交亀裂説」です。

・韓日関係改善に対する世論が好意的ではないため、尹大統領は[3月]21日の閣議の冒頭発言を23分間、生中継することで直接、国民の説得に出た。
・この席で尹大統領は自身が直接、世論の説得に出ざるを得ない状況に陥ったことに関し参謀を叱咤した。韓日関係改善に慎重な立場を見せていた金室長はそれをおおいに気にかけていたという。

 この記事は「日韓」に、安保室と大統領の周辺を固める秘書室との確執、金聖翰室長と金泰孝次長の路線対立も絡み大事になったと分析しています。

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