尹錫悦、外交チームを突然「粛清」 レディー・ガガ?日韓関係?米韓首脳会談の直前、飛ぶ憶測

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韓中半導体同盟の破壊狙う米国

――米韓首脳会談を終えてから室長らを更迭しても良かったのでは?

鈴置:室長と次長の対立が、首脳会談を待てないほどに厳しくなっていたからでしょう。ことに米韓首脳会談でこそ、安保室内部の対立が表面化する可能性がありました。

――米国との間では謝罪問題などありません。

鈴置:「親米従中」か「親米反中」か、というもっと本質的な問題が存在します。尹錫悦政権の初代安保室長であった金聖翰氏が立てた基本戦略は以下の2点でした。

①米国との関係改善に努め、北朝鮮の軍事的な脅威に対抗する。
②中国との良好な関係の維持に努め、経済的な利益の拡大を図る。

 尹錫悦政権は「米国回帰」を大声で唱えはするものの、中国に立ち向かうつもりはない。要は「親米従中」です。安全保障は米国に頼り、経済は中国に依存するという「安米経中」路線であることは過去の政権と同じです。

 でも、その「安米経中」は限界に達しました。米国が経済を安保の武器に使い始めたからです。その一環として、中国に最先端の半導体を作らせないし売りもしない、という半導体封鎖網を敷くべく動いてます。

 一方、メモリー大国の韓国は輸出の半分を中国市場に依存。韓国の――世界のメモリー大手2社は中国で準主力工場を稼働中です。半導体分野では「韓中同盟」が成立しているのです。

 米国は韓国メモリー・メーカーの中国工場の設備更新を制限することで、その枯死を狙っています(「今度は『半導体』で日本を騙す韓国 来日の尹錫悦が繰り出した必死の作戦」参照)。

 韓国では「4月の首脳会談で中国工場の存続を要求すべきだ」との声が高まっています。しかし、そんな要求を突き付けられたバイデン大統領は「韓国は中国との半導体同盟を破棄するつもりはない」と見なす可能性が高い。日本やオランダは先端半導体の製造装置の対中禁輸をすでに約束しているのです。

「安米経中」路線の提唱者である金聖翰氏が安保室長のままなら、首脳会談で半導体を巡り、米韓に亀裂が走る恐れがありました。「粛清」により、それを回避したつもりなのかもしれません。

レディー・ガガらの公演は雲散霧消

 金泰孝次長は親日派ではありません。米国との同盟を強化するためには日本との関係を強化するべきだ、と考えているに過ぎません。逆に言えば「親日派」とのレッテルを貼られることを覚悟したうえで、韓米同盟の強化に動くほどの「親米派」なのです。

 金泰孝次長が外交の舵(かじ)を取れば、尹錫悦政権は中国工場の枯死ぐらいは甘受するかもしれません。その代わりに日米豪印の協力の枠組みである「Quad」への参加を要求する可能性があります。

 米国は尹錫悦政権の「親米従中」を見抜いていましたから「Quadに韓国が入る余地はない」と公式に表明してきました(「早くも米日とすれ違う尹錫悦外交 未だに李朝の世界観に生きる韓国人の勘違い」参照)。しかし、米国との確かな同盟を北朝鮮に見せつけるには、Quad参加が不可欠と韓国の保守は考えています。

 安保室の「粛清」が米韓関係にどう影響を及ぼすか、はなはだ興味深い。「親米従中」に変化はないかもしれませんが、軌道修正はありうる。その意味で4月26日の米韓首脳会談は注目の的なのです。

 なお3月31日、大統領室はBLACKPINKとレディー・ガガの合同公演は実施しないことを明かしました。安保室のミスにより調整の時間が足りなかった、と韓国メディアは報じています。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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