来日間近! ノーベル賞ミュージシャン「ボブ・ディラン」の世界遺産的な歌唱力に注目せよ!

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 現在81歳の伝説的ミュージシャン、ボブ・ディランの来日公演が4月6日、大阪で幕を開ける。2016年にノーベル文学賞を受賞してからは初めての日本ツアーの見どころを、2月に『ボブ・ディラン』(新潮新書)を上梓した音楽評論家の北中正和氏に解説してもらった。

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現在81歳。ポール・マッカートニーより1歳上

 ボブ・ディランの来日公演が近づいてきた。現在81歳。ポール・マッカートニーより1歳上、ミック・ジャガーやキース・リチャーズより2歳上。ミュージシャンに定年はないとはいえ、ロックの伝説を作ってきた長老たちには元気で活躍している人が多い。彼はその先頭を走っている。

 今回の来日は「ラフ&ロウディ・ウェイズ・ワールド・ワイド・ツアー」の一環だ。そのタイトルは2020年に発表した最新スタジオ・アルバム「ラフ&ロウディ・ウェイズ」にちなんでいる。81歳にして「荒くれた乱暴な道」というあたり、簡単にものわかりのいい年寄りにはならないぞ、という気配が濃厚だ。

 このツアーは2021年11月からはじまり、アメリカ、ヨーロッパを経て、4月の日本公演の後、6月から再びヨーロッパに行き、その後も来年まで続く予定。ただし1988年から彼のツアーはファンの間では一括して「ネヴァー・エンディング・ツアー」と呼ばれている。今回と同様そのつど個別のタイトルがつけられているのだが、88年のツアーにつけられたこのタイトルのほうがわかりやすいので、そちらが総称として定着しているのだ。いまとなってはまさに高齢化社会、生涯現役を地で行くような呼び名ではある。

コンサートの1曲目は「川の流れを見つめて」か

 半世紀前に若者の音楽として登場してきたロックも、年齢の垣根を越えて伝統芸能化し、歴史的な評価を得てきている。今回の来日は7年ぶり、ノーベル文学賞を受賞後初の来日だ。前回はフランク・シナトラゆかりのスタンダードを歌うアルバムの連作が出た後で、曲目もスタンダードをたくさん取り入れた内容だった。今回は、彼のサイトで発表されている曲目を見ると、最新アルバムのほとんどの曲を、旧作を間にはさみながらやっている。

 日本でも同じかどうかわからないが、これまでのところ、どのコンサートも最初は「川の流れを見つめて」だ。71年にシングルで発表され、ジョー・コッカーやローリング・ストーンズからスティーヴ・ガッドまで、さまざまな人にカバーされてきた曲である。何が起ころうと、風がどっちに吹こうと、おれは静かに川の流れを見つめているという一節が、世評を気にせず我が道を歩んできた彼らしい。

遊び心あふれるジャケット

 ちなみに来日記念盤「流行歌集」のジャケットが面白い。歌川広重の浮世絵、名所江戸百景の一枚「大はしあたけの夕立」が使われているのだが、よく見ると、はげしい雨にうたれて番傘の下で身を寄せる人物がボブ・ディランとスーズ・ロトロに替えられている。まるで橋の上から「川の流れを見つめて」いるかのように……。ボブとスーズは「風に吹かれて」「はげしい雨が降る」「戦争の親玉」といった代表作を収録したアルバム「フリーホイーリン」のジャケットではニューヨークの雪の路上にこの格好で登場していた。それをふまえてジャケットを作ったスタッフの遊び心に拍手を送りたい。

 主催者のサイトの来日メンバーの告知ではカントリー・ロック系のギタリストのダグ・ランシオが初参加。ドラマーの名前が書かれていないが、単に決定が遅れているだけなのか、意図的な編成変更なのか、大いに気になるところだ。いずれにせよ、大幅にメロディーやリズムを変えて歌うことで有名なボブのことだから、どんなコンサートになるのか、予測はつかない。ダミ声なので見落とされがちだが、長大な歌詞を軽々と歌い続ける彼の世界遺産的な歌唱力にも注目したい。

 60年代からボブ・ディランの音楽に影響され、それが高じて音楽評論を続けた身としては、もちろんコンサートに駆けつける予定。本を書いたときは来日のことは知らなかったが、これも運命のひとひねりとありがたく思うことにしている。われながら足腰が心配だが、ぼくより5歳上の彼が生き生きしているのだから、文句は言うまい。楽しみだ。入場料高いけど。

デイリー新潮編集部

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