買い物中の尿漏れで自己嫌悪、トイレに駆け込んでも窮地に…61歳「前立腺がん患者」が語る“想像を絶する異変”

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鎮痛剤の威力

 歩くのに意識を集中させすぎて、浴衣の前がはだけていたことに気づかなかった。看護師に指摘され、あまりの恥ずかしさに狼狽した。

「病室に戻ってベッドに横になりました。相変わらず食欲はなく、じっとしていても痛みはひどくなる一方です。もう耐えられないと思い、鎮痛剤のボタンを押しました。すると劇的な変化が起きました。嘘のように痛みが消え、部屋が明るくなったような気がしました。非常に前向きな幸福な気持ちでいっぱいになったのです」

 看護師が部屋に入ってくると、鎮痛剤の効果なのか、表情がきらきらと輝いて見えた。夜もぐっすりと眠れた。そして「会いたいと願っていた友人との再会」とか「仕事で立て続けに成功を収める」といった楽しい夢ばかりを見た。

 翌朝の目覚めは快適だった。さっそくボタンを押してみた。あっという間に幸福な気持ちでいっぱいになる。その一方で食欲は全くない。看護師に「歩いてください」と言われたが、昨日の失態を思い出してやる気になれない。

 翌日、朝食は通常食になったが、相変わらず食欲はない。食後、個室に2人の看護師が入ってきた。鎮痛剤の残量をチェックしている。

「看護師さんに『点滴と鎮痛剤を外します』と言われ、強いショックを受けました。『痛くなったらどうすればいいんですか? まだ使いたいです』と懸命に食い下がりました。しかし看護師さんは『これは一種の麻薬なので、今日で終わりです。痛い時は飲み薬の鎮痛剤を持ってきます』と動じません。『あの心地よさ、深い眠り、楽しい夢がもう見られなくなる』と悲しくて仕方がありませんでした」

尿漏れの始まり

 ところがしばらくすると、今度は腹部ではなく肩が異常なほど痛い。担当医が回診に来た際、「あまりにも辛い」と訴えてみた。すると意外な理由を説明してくれた。

 ダ・ヴィンチ手術では頭を30度下げ、軽い逆立ちの状態で執刀するという。重力で腸を上半身側に移動させたほうが手術には都合がいい。男性の肩は8時間、全体重を支えていた。これで肩が悲鳴を上げたのだ。担当医から抗炎症剤を処方されると、幾分かは楽になった。

 この頃から腹部の痛みは減っていった。代わりに浮上した悩みが尿漏れだ。看護師が尿道カテーテルを抜くと、すぐに釘を指された。

「『カテーテルを抜いた瞬間から尿漏れが始まると思ってください』と言われました。尿漏れパッドを手渡されましたが、確かに前触れもなく股間が濡れ始め、かなり焦りました。その後、何度もトイレに行き、排尿量を記録します。徐々にパッドが重くなり、寝る前に新しいものに交換しました。ところが、『大丈夫だろうか。この年でおねしょは恥ずかしすぎる』と不安に襲われたのです」

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