「無期懲役では反省しない」死刑判決を受けた当事者の肉声 世界を取材をしてたどり着いた「死刑制度を残すべき理由」

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「形を変えた死刑」

 だが、私は、それを受け入れる必要があるのか疑問だ。なぜなら、日本の死刑よりも野蛮に思える状況を、フランスで取材していたからだ。

 欧州生活が25年以上になる私は、現地で日々、複雑な社会情勢を目の当たりにしてきた。日本に対し、死刑廃止を声高に叫ぶフランスの治安は、近年、悪化している。同国以外では報じられないが、警察による「正当防衛でない現場射殺」が、実は横行しているのだ。私はこれを、「形を変えた死刑」ではないかと考えてきた。

 昨年5月、南仏マルセイユで、現場射殺事件の被害者遺族と、加害者となった国家警察の組合事務局長を取材した。職務質問を拒否して車をバックさせた19歳の男性を警官が射殺した事件だ。犠牲者の父親は、「死刑が公共の場で復活している」と嘆いた。

 さらにその父親は、「現場射殺されるくらいなら死刑を復活させて、裁判を経た結果として処刑されたほうが、よっぽどましです」と語気を強めた。

「もし今のフランスに死刑があれば…」

 マルセイユを含む人口203万人のブーシュ・デュ・ローヌ県の殺人・殺人未遂認知件数は、2021年の1年間で149件(マルセイユ司法当局調べ)。東京都は、2020年が105件で2021年が83件(警視庁調べ)だった。人口比で見ると、同県の現状は東京都内で今の約10倍もの殺人事件が起きている感覚だ。

 こうした治安環境の中、警察組合の事務局長は、「現場射殺はやむを得ない」と指摘し、あくまで正当防衛を主張。その上で、こうも明言した。

「もし今のフランスに死刑があれば、人を殺したら自分が殺されるという意識が生まれるでしょう」

 図らずも、死刑制度による犯罪抑止力を認めた格好となった。

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