「偏差値トップクラスの大学でも基本的な言葉すら知らない」 現代人の語彙力の低下と、その鍛え方 宮崎哲弥×齋藤孝

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語彙力をどう伸ばすか

宮崎 最近、若い世代のあいだでは、短歌などの定型詩がブームになっているらしいですね。字数の限られたSNS等の影響もあるのかもしれない。これをきっかけに和語への関心が高まるといいのですが。

齋藤 いまの若者には、コメント力はあります。私はネットニュースのコメント欄をじっくり読みますが、中には思わずくすっと笑ってしまうような、上手なコメントを書く人がいる。視点は鋭いのです。ただ、それが語彙力につながっていないことがある。それは生活でも同じで、人間関係を滑らかにするための言葉が、社会生活には重要です。相手の気分を害さない上手な言い方は、特にサービス業で大事ですが、語彙が貧しいと、全て言葉の上に「お」を付け、語尾では「させていただく」を連発してしまう。相手を敬おうとしているのはわかりますが、内容がなく不自然になっている。私の『大人の語彙力大全』、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)といった語彙本はそんな人たちに向けた「言い換え辞典」を目指しているところもあります。

語彙形成のプロセスを他人に伝えたい

 ――宮崎さんの『教養としての上級語彙』の冒頭には、中学生時代から未知の言葉を集めて記していた「語彙ノート」の1ページが写真で紹介されています。

宮崎 いまは電子ファイルにしましたが、昔はノートに書き付けていました。本や雑誌、新聞、テレビなどで未知の言葉に出くわすと、メモを取って、辞書を引き、ノートに記していた。この本の執筆に当たって、自分自身の語彙形成のプロセスを他人に伝えることができないかと考えたんですよ。また読むだけで上級語彙がその用法とともに覚えられるようにも工夫しています。たとえ使えるほどには身に付かずとも「読んで意味がわかる」ところまではいける(笑)。

齋藤 私の場合、父親が読書好きだったので、本を読むのは当たり前で、町に出ると本を買ってもらうのが習慣でした。当時はわりと小中学生でも、大人の本を読んでいたんですよね。

宮崎 かつて文学全集や百科事典は、応接セットみたいなものでした。一家に一組(笑)。でも本を箱から出して試しに読んでみると、意外にも面白かったりする。

齋藤 一般家庭では、毎朝、新聞が届き、応接間には文学全集が鎮座していました。小学生の頃からシェイクスピアやトルストイに慣れ親しんでいると、その先のハードルは低くなり、ボキャブラリーも身に付く。そして少々難しい書籍を読むのも苦労しなくなります。そうした環境で成長すると、教養への憧れが自ずと湧いてくる。でもいまはかなり薄れてきています。

宮崎 そこを補うために、この本を出したわけです(笑)。本当は例文の出所である原典にも触れてほしいですね。興味を持つ一助になれば、と思っています。

齋藤 孝(さいとうたかし)
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に『12歳までに知っておきたい語彙力図鑑』他多数。

宮崎哲弥(みやざきてつや)
1962年、福岡県生まれ。テレビ、ラジオ、雑誌等で、政治哲学、生命倫理、仏教論、サブカルチャー分析を主軸とした評論活動を行う。著書に『ごまかさない仏教』(共著)など。

週刊新潮 2023年3月16日号掲載

特別対談「『宮崎哲弥×齋藤孝』 人と差をつける『上級語彙力』講座」より

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