「なごり雪」は間違った日本語だった? 梶原しげるさんが考える「正しい日本語」圧力問題

社会 2016年7月5日掲載

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■正しい日本語、不適切な日本語

 今年も半分が過ぎ、さまざまな新語や流行語が生まれている。年末の流行語大賞にノミネートされそうなのは、「アモーレ」「センテンススプリング」「パナマ文書」「違法ではないが不適切」あたりだろうか。

 新しい言葉や言い回しが生まれ、広まると、それを受け止める側の反応は二分されることが多い。特に新語に関しては、面白がってどんどん使う人もいれば、「正しい日本語を使え」と眉をひそめる人もいる。今では一般的になった「ダサい」「まったり」といった言葉も当初は抵抗を示す人も多かった(今もいることだろう)。

「新しい日本語」についてどのように考えればいいのだろうか。

 新著『不適切な日本語』で、新語問題について考察を披露している梶原しげるさんの話を聞いてみよう。

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フリーアナウンサーで東京成徳大学客員教授の梶原しげるさん

「正しい日本語」というものをとても重視される方がいます。私も普段は日本語についてあれこれ調べたり書いたりしているのですから、基本的にはそちらに近い立場と言えるかもしれません。

 今回の本でも、「結婚と入籍は別のものだ」「『元気をもらう』って言い方、気にならないか」などと細かいことをあれこれ書いているので、きっと一部では「ウザい」と思われていることでしょう。ちなみに、この「ウザい」も比較的新しい言葉ですね。

「正しい日本語絶対主義者」のような方がいる一方で、「言葉は常に変わり続けるものだから、いちいちうるさいことを言うな!」という方もいらっしゃいます。いわば「日本語改革支持者」でしょうか。

 日本語に関する本を書いていると、そういう「改革支持者」の方からは厳しい意見を寄せられることがあります。

「お前みたいにアタマの固いオヤジが、日本語について講釈を垂れるのがムカつく。言葉の変化を認めなかったら、いまだに俺たちは、『ありおりはべり~』で喋ることになるじゃないか!」

 こんな感じのご意見です。

『不適切な日本語』などという本も出したので誤解されがちなのですが、私は決して新しい言葉や言い回しを頭ごなしに否定しようとは思っていません。

 また、「正しい日本語」がそのまま「適切な日本語」になるとは限らないことについては、最近、舛添前都知事が身をもって教えてくれた通りです。

 舛添さんが会見で使った言葉の多くは、日本語としては問題のないものです。しかし、多くの人の共感を得られなかったという点で「不適切」でした。「違法ではないが不適切な支出」に関する説明が「文法的には間違っていないが不適切な日本語」になっていたわけです。

■「なごり雪」は間違い?

 舛添さんと比較するのも何ですが、「文法的には不適切」とされながらも、多くの人の心をつかんだ言葉があります。

「なごり雪」です。

「なごり雪」は、言うまでもなくイルカさんの大ヒット曲。

『女性セブン』が2013年11月17日号で発表した「思い出の名曲ランキング」の「青春の思い出の曲部門」では堂々の首位に輝いていました。

 最近では、日本気象協会が募集した「新しい季節のことば」の中で、3月の言葉としても「なごり雪」は選ばれました。

 しかし、実はこの「なごり雪」、発表当初は「日本語として間違っている!」という批判を浴びたことがあるのをご存じでしょうか。作者であるシンガーソングライターの伊勢正三さんに、話を聞いたことがあります。伊勢さんはこんな風に話してくださいました。

「実はこの曲を発表した当時、なごり雪、という言葉についてちょっとした問題提起がなされました。

 粉雪、細雪はあっても、なごり雪、などという雪も言葉も存在しない。勝手にこんな言葉を作られては日本語の乱れを助長する。『名残の雪』に変えたらどうだとまで言われたんです。

 作り手としては『の』はどうしても入れたくなかった。

 曲はヒットしましたがモヤモヤは残りました。

 あれから40年近くたって気象協会の『季節のことば』に選ばれたと聞き、胸のつかえが下りた気分です」

 実は私は、この「新しい季節のことば」を選ぶ側の一人でしたが、選考過程では歌人、国語学者、暦学者など、専門も年齢も様々な委員たちの中に「日本語として問題だ」などと「なごり雪」に異を唱える人はいませんでした。

 もしも「正しい日本語を」という圧力に伊勢さんが屈して「名残の雪」になっていたら、ここまで愛される名曲となっていたかどうか。

 そう考えると「正しさ」だけを追求するのも窮屈なのでしょうね。

 もちろん、だからといって無闇に乱れた日本語を使うのはまったく賛成できませんが。

梶原しげる/デイリー新潮編集部