「偏差値トップクラスの大学でも基本的な言葉すら知らない」 現代人の語彙力の低下と、その鍛え方 宮崎哲弥×齋藤孝

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平易さへの逃避

齋藤 原因は、やはり活字文化の衰退なのではないでしょうか。活字文化の中にはあるけれども、日常生活ではあまり使わない言葉がありますね。活字を読む人同士だったら、それらを交えて話しても意思疎通ができますが、大勢がわからないために使うことがなくなり、いつの間にか言葉自体が社会から消えてしまう。

宮崎 そうですね。私の感覚だと、1980年代後半あたりから難解な語を避ける、「平易さへの逃避」が顕著になってきた気がします。それが今日に至るまで続いている。

齋藤 ちょうど私が20代だったバブルの頃ですね。当時は、文化が軽くてもいいんじゃないかと、「軽(かる)チャー」という言葉がはやりました。重苦しい、難しいものよりも、ポップなものが良いとされる時代でした。

宮崎 もっとも当時はまだ、活字文化の残滓がありました。難解な言葉だらけの、いわゆる「ニューアカ」の思想書が広く読まれていた。たぶんあれが高級な語彙力の最後の砦だったんじゃないかな(笑)。

歴史小説もくだけた言葉遣いに

 ――いまは大河ドラマで登場人物が語るせりふさえも、渋谷の若者が使うような平易な言葉です。ですから描かれている時代の雰囲気がまるで伝わってこない。

宮崎 確かに歴史小説も最近はかなりくだけた言葉遣いになっていますね。2000年代の「篤姫」あたりまでは、結構レべルの高い、しっかりした語彙が使用されていたんですが。

 ああ、そうだ! 1970年代半ばに、NHKで「明治の群像 海に火輪を」というドラマを月1ペースで放送していたでしょう。毎回、全然知らない言葉がいっぱい出てくるので、私は仕方なく新潮社刊のシナリオ付きのビジュアル・ブックを買ったんです。それでずいぶん語彙を増やしました。評論家・江藤淳の原作・脚本でした。

齋藤 私はNHK・Eテレの「にほんごであそぼ」という子ども番組の総合指導を20年間やっています。そこでは小さい子ども向けといっても手加減しませんよ。日本語の一番良質なものをぶつけています。そうしないと、子どもたちは何もかも「ムカつく」、「ヤバい」、「カワいい」、「エモい」で済ませてしまう。細かい違いを切り分けて、それに合った言葉を当てるようにさせます。なぜなら、文化は、表現の選択肢の多さがその豊かさにつながるからです。

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