【袴田事件】再審開始決定 初めて泣いた姉・ひで子さんが帰宅後、巖さんに掛けた一言

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再び見せた涙

 再審開始決定の翌日、ひで子さんは参議院議員会館で開かれた弁護団の報告集会に参加した。「袴田巖死刑囚救援議員連盟」の塩谷立会長はじめ、鈴木宗男さんと娘の貴子さん、福島みずほさんら国会議員らが次々と挨拶した。

 ひで子さんは「巖にはまだ決定のことは言ってません。『再審開始になったよ』と言ってもわからないでしょうから、『すごくいいことがあったよ』と伝えます。本当にありがとうございました」と再び声を詰まらせた。

 過去に再審で無罪となった人や支援者らも続々と発言した。

「布川事件」の冤罪被害者・桜井昌司さん(76)は「「昨日はひで子さんが出てきて皆さんに嬉しそうに挨拶しているの見て、本当によかった。よく見たら泣いているんですよね。でも私は腹が立っている。なんでこんなに長いんですか。再審開始のハードルを下げるとかいうことを検察が言っているとか聞きますが、そんなことは検察が決めることではなく国民が決めること。あの人たちが司法を動かしているように言うのは大間違い。常識があれば真空パックなどにしますか」と憤った。

 真空パックというのは、検察側の不自然な実験条件のことだ。何とか赤みを残そうとした検察は、血液を付けた布を脱酵素材で真空にした味噌容器に入れ、実際に「5点の衣類」が発見された味噌タンクとはかけ離れた条件を設定していた。

 大阪市東住吉区の女児焼死事件の犯人とされ、のちに無罪となった青木惠子さん(59)は「私は2014年に獄中(のテレビ)で巖さんの釈放を見ました。無期懲役の私には死刑囚の袴田さんの辛さはわからないけど、私も(無罪の決め手は)再現実験でした。仲間が勝つことは本当に嬉しい」などと語った。

 痴漢冤罪がテーマの映画「それでもボクはやってない」(2007年)で知られる映画監督の周防正行さんも登場した。

「袴田事件は、そもそも捜査に著しく違法性があり、取り調べでの違法性は明らか。(現在でも、取り調べの)録音・録画は裁判員裁判や検察の独自捜査などに対象が限定されている。録音・録画を行っても違法な取り調べが何件もあり、弁護士の立会の法制化など見直しを進めるべき」(周防さん)

「日本プロボクシング協会 袴田巖支援委員会」の新田渉世委員長は「決定のパンチで検察をロープ際まで追い詰めた。立ち上がって来るかもしれないが完全にノックアウトしましょう」と拳を握った。

どうして検察は会見しないのか

 前後するが、弁護士会館での会見の質疑で「こういう時、弁護士ばかりが会見していますけど、どうして検察は記者会見に出てこないんですか?」と問題提起した大柄な男性がいた。

 この男性は市川次郎さん(57)。プロボクシングヘビー級の草分けで、引退後、「日本プロボクシング協会 袴田巖支援委員会」のもと熱心に支援活動をしてきた。

 どんな時でも検察庁は次席検事のコメントを出すだけだ。今回も山元裕史・東京高検次席の「検察官の主張が認められなかったことは遺憾。決定の内容を精査し、適切に対処したい」とコメントを出したけだ。

「公益の代表者」を自認する検察は、なぜこんな時ですら表に出で会見せず、紙切れ1枚にもならない短いコメントで済ませるのか。市川さんの質問は、マスコミが「当然」と思っていることに対して、改めて重要な問題提起をしてくれたのだ。

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