単身赴任先で小料理屋の女将とデキてしまった48歳夫の苦悩 不意打ちの「ただいま」で妻子の表情が忘れられない

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妻から告げられた「離婚したい」

 娘のパパ活はそれ以降、どうなったのかわからない。家族は話し合いができないまま時間だけが過ぎ、娘は高校を卒業して専門学校に通い始めた。今は学校が遠いから友だちの家に泊まると言って帰ってこないことが多い。高校生になった息子は親とほとんどコミュニケーションをとらない。

「先日、妻がようやく口を開いたんです。息子の高校卒業を待って離婚したい。それを前提に生活していくつもりだと。あれから僕は由美さんとは会っていません。自分がしたことは謝る。だけど弟ときみの関係はどうなっているんだと希久子に迫りましたが、彼女はそれには答えなかった。僕は離婚するつもりはない。でも妻は息子が進学したら出ていくという。妻の目の前で弟に電話をかけて聞いたんです。そうしたら弟が、ありえないと断言した。それでも信じられなかった。そうしたら妻が、『ほらね、そうやって私をまったく信用していない。そういうところが昔から嫌だったのよ』と。あれ、そんなふうに思ってたのかと脱力しましたね」

 うっとうしそうにそう言う妻を見ながら、彼はいつからこんな関係になってしまったのだろうと考えていた。単身赴任を躊躇していたとき、励ましてくれた妻の言動を彼はずっとありがたく思っていたのに、と。

「あなたはいつでも自分の味方でいる私を愛していたのよね。励まして慰めてくれる母のような存在。でも私は実際の母親になって、ひとりでがんばってきて変わったの。変わった私をあなたは認めようとしなかった」

 妻は一気にそう言った。だが、和紀さんは妻が変わったとは思っていなかった。

「きみはずっと、あの頃の希久子のままだよと言ったら、『私だって成長したと思う。子育てしながら、私がものすごく読書をしていたのを知らないでしょ』って。文学から哲学まで、相当な本を読んでいたそうです。帰ってきても気づきもしなかったと言われ、あとから寝室の本棚を見て驚きました。確かに哲学書の類いがすごかった。息子が中学に入ったら大学院に行きたいと言っていたこともやっと思い出した 」

 結局、あなたは自分にしか興味がなかった。私は息子が中学に入ってから、ある大学の哲学科に通信生として入学したのよ、大学院に行く夢も捨ててないと妻は言った。

 変わりゆく妻を認めたくなかったのかどうか、和紀さん自身に自覚はない。だが、生きていれば人は変わる。和紀さんは自分を認めてくれる妻が好きだった。彼自身は妻を認めていたのだろうか。妻の変化に敏感であっただろうか。

「求めていたものが違うとしか言えない。今思えば、僕は妻のどこを愛していたのかもわからなくなっています」

 妻が宣言した息子の高校卒業まではあと1年。この1年でお互いに納得がいく答えを出せるのだろうか。

 ***

 和紀さんが愛する希久子さんと築いた幸せな家庭は、4年の単身赴任の間に完全に崩壊してしまった。

 亀山氏が指摘している通り、和紀さんは妻の変化に鈍感だった。希久子さんはそこに最大の不満を抱いていたようだ。離れて暮らしていれば変化には気づきようもないから、怒りがわきようもない。彼女の離婚したいという気持ちは、和紀さんが帰ってきてから主に募っていったものだと推察できる。

 和紀さんから学ぶべきものがあるとすれば、単身赴任中と同じくらい、あるいはそれ以上に、単身赴任「後」の家族とのかかわり方に気を使うべきだった、ということだ。子供たちの変化を和紀さんは受け入れようとはしても、希久子さんに対してはそういったそぶりは見られない。むしろ変化を拒否しようとしてすらいる。

 亀山氏に「最近、あのころ(※単身赴任する前)の希久子がやたらと思い出される」と語っているのは象徴的だし、赴任中に「妻がパートを始めた」と聞いても〈それについて何か言えるわけでもなかったから、『体には気をつけて』とだけ言った〉というのも、いかに今の妻に無関心かがうかがわせる。

 この態度が、自分のいない間に愛する妻が変わっていてほしくない……という思いゆえだとしたら、一種の悲劇ではある。新しい妻ともう一度やっていきたいと和紀さんが強く思えるかどうかが今後の鍵だろう。もっとも、由美さんとの不倫が家庭崩壊の決定打であることは間違いないから、すべては彼の自業自得なのだが。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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