スモールビジネス創出で「一流の田舎」を作る――藻谷ゆかり(経営エッセイスト)【佐藤優の頂上対決】

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地方で生きるには

藻谷 私は田舎で伸び伸びと育てて、子供が子供らしくいられる時間を作ってあげたかったのです。それに3人の子供を塾や私立学校に通わせる経済的な余裕もなかったですし。

佐藤 田舎なら外遊びするでしょうし、子供のコミュニケーションも密ですよね。一方、東京は小学校が荒れてきている。難関校を目指し塾に通う子供にとっては、学校の授業がつまらないので荒れるんですね。ただ6年生になると、収まる。余裕がなくなりますから。

藻谷 北御牧村で中学受験する子はほぼいなかったですね。

佐藤 塾をベースにした人間関係は、その後の中高一貫校でも、大学でも続きます。つまりずっと同質的集団の中で育っていくことになる。彼らは大学や大学院を出て、初めてさまざまな人と触れ合うわけですから、そこで機能不全を起こす人が出てくる。

藻谷 そういう部分はあるでしょうね。田舎では県立高校の受験という形で、15歳で初めて試練が訪れます。昔は元服の年齢ですから、そこではもう親として子供たちに人生の艱難(かんなん)に立ち向かわせる時期だといえます。

佐藤 逆に言えば、それまでは子供らしく暮らせる。

藻谷 なじむのが一番早かったのはやはり次男で、保育園の3年、小学校の6年、中学の3年の12年間はほぼ同じメンバーで過ごしました。彼らは、けんかもするけども、必ず仲直りをする。

佐藤 東京ではそれが難しい。いま小学校でも、いじめの気配があったり、学校が合わないからというだけで、転校が認められます。

藻谷 地方には同じ場所で長い時間一緒に過ごす「のっぴきならない人間関係」があります。自分の意思と相手の意思がぶつかり合いながらも常に仲直りしつつ、関係が続いていく。首都圏の大学に進学した長女が、仲違いして関係を切る人を見て「どうしてあんなふうに切っちゃうんだろう」と言ってきたことがあります。

佐藤 田舎では諍いが起きても、お互いどういう人かわかっていますからね。

藻谷 個人情報はほとんどわかっていますね。その上で3歳から長野にいた次男は「同級生は好きでも嫌いでもない、一緒にいると安心する存在」と言うんですよ。それを聞いて、私はそうした人間関係を持っていないな、と思いましたね。

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