「キャラ変」しない人の方が人気が長続きする? 騒動を経ても軸がぶれないホリエモン(古市憲寿)

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「キャラ変」という言葉がある。文字通り、キャラクターを変化させることだ。進学や転職をきっかけに、地味だった自分を陽キャに見せるなどの例がある。

 だがキャラ変は口で言うほど簡単ではない。昨日まで培ってきた自分を一日で変えるなんてほぼ不可能だからだ。キャラクターというのは、行動や容姿、口癖などの集大成といえる。ちょっとしたテクニックで激変するものではない。

 物語でもキャラ変は難しい。たとえば世界を救おうと立ち上がった熱血漢の主人公が、理由もなくギャンブルにはまったら物語は続かない。よほど説得的な理由が必要である。そして当然ながら、キャラ変前より後のほうが魅力的でないと、面白い物語にならない。

 脚本術の基本だが、魅力的なキャラクターは「目的」や「動機」を持っている。もしも主人公に目的や動機がない場合、聴衆は置いてきぼりをくらう。「これって何の話だったっけ」と迷子になってしまうのだ。

 現実世界でも同様である。目的や動機を持った人物は人気がある。たとえば「好きな歴史上の人物」ランキングでは、いつも織田信長や坂本龍馬が上位を占める。少なくともイメージ上の彼らには、明確な目的があったように見えるからだろう。しかも「天下を統一したい」「日本を西洋に負けない独立国にしたい」といった壮大な夢だ(それが史実かどうかは関係ない)。

 さすがに令和の日本で「天下を統一したい」などという夢を掲げる人は少ない。既に日本列島は同一の権力と制度の下にある。強いて言えば、東日本と西日本で電源の周波数は違うが、大きな実害はなく社会は回っている。電源周波数の統一を目指して奔走する政治家がいたとして、後世まで名前が残るとは思えない。

 他国と戦争をしてまで領土的野心を満たす時代でもない。「隣国と戦争をして日本領土を拡大します」という政治家がいたら、大バッシングを浴びるだろう。成熟した時代では、大きな目的を抱きづらいのだ(日本が更に困窮したら、馬鹿でもビッグマウスの政治家がもてはやされるのかも)。

 もちろん目的の持ちづらい時代でも、魅力的なキャラクターは存在する。その時、キャラ変をしていないように見える人物の方が、長期的には人気を維持できているように見える。

 たとえばホリエモン。彼は比較的キャラにブレがない。柔軟な人であるが、国家や既得権益に対する批判精神を持ち続けている。そして常にフロンティアを探して戦っている。それは逮捕や裁判での有罪、収監といった騒動くらいでは変わらなかった。

 一方で、強気で売っていた人が、何かの事件をきっかけに急に神妙になったら、ファンはそのキャラ変に戸惑うだろう。苦境にも負けずにファイティングポーズを取り続ける人は格好いい。主張内容や言動はこっそり変えてもいいが、それがキャラ変に見えないように振る舞うのが大事だ。人気者でピンチの皆さん、頑張って下さい。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2023年2月23日号掲載

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