「うごかす、とめる。」技術を進化させる仕組みを作る――木村和正(ナブテスコ社長)【佐藤優の頂上対決】

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陸も海も空も

佐藤 精密減速機もまさに「うごかす、とめる。」技術ですが、「とめる」の代表格であるブレーキも作られていますね。

木村 祖業の一つが鉄道のブレーキです。弊社はナブコという会社と帝人製機という会社が合併して2003年に誕生しましたが、ナブコはもともと神戸製鋼グループの「日本エヤーブレーキ」という会社でした。同社は1925(大正14)年、鉄道の国産化を目指す国家プロジェクトの中で誕生しました。

佐藤 いわば国策企業ですね。

木村 ええ、その祖業をいまも受け継いでいます。また鉄道では、車両用ドア開閉装置も製造しています。

佐藤 こちらのシェアも大きそうですね。

木村 国内の鉄道車両用ブレーキシステムは約50%、鉄道車両用ドアは約60%になります。これら乗り物向けの製品は「トランスポートソリューション」事業と呼んでいます。ここでは陸、海、空それぞれの分野で「うごかす、とめる。」技術の部品を作っています。陸では鉄道の他に、トラックやバスなど商用車のブレーキ関連の部品もあります。

佐藤 さらに海も空もある。

木村 海は船舶のディーゼルエンジンを船橋(せんきょう)や制御室から遠隔操作するための装置ですね。またエンジンの燃料噴射のタイミングや量を電子制御する電子制御油圧バルブもあります。空では、航空機のフラップを動かし、飛行姿勢方向を制御する「フライト・コントロール・アクチュエーション・システム」を提供しています。これを生産しているのは、日本では当社だけです。

佐藤 では、防衛省にも納入されているのですか。

木村 はい。またアメリカではボーイング社の仕事をいただいています。もっとも海外には競合会社があって競争も厳しいですが、弊社の製品は、「737MAX」や「787」、また「777」やその後継機である「777X」にも採用が決まっています。

佐藤 製品の性格には一貫性がありますが、実に幅広いですね。

木村 事業セグメントとしてはもう一つ、「マニュファクチャリングソリューション」という分野もあります。こちらは少し色合いが異なり、レトルト食品用の包装機を作っています。

佐藤 いわゆるレトルトパウチに中身を充填するための機械ですね。

木村 この機械は帝人製機の子会社だった東洋自動機(現PACRAFT)という会社が、1960年代から生産していました。世界初の市販レトルトカレーにも弊社の機械が使われました。国内シェアは85%です。

佐藤 この分野でもとても高いシェアを持っている。ナブテスコはさまざまな分野で第1位のシェアを持つ製品がある、非常に特徴のある企業なのですね。

木村 どれもニッチな業界ではありますが、幸いにその中では大きなシェアをいただいています。

佐藤 トップの会社と第2位以下の会社とでは事業戦略が大きく変わってくるのではないかと思います。2位以下なら、どこか突破口を見つけて、そこから攻め込んでいけばいいのでしょうが、1位の会社は、いまのマーケットを守りながら戦うことになる。

木村 そうですね。そこでまず重要になるのがパテント、特許ですね。それからもう一つ大事なのがノウハウです。後者は、どこまで開示するのか、あるいはブラックボックス化してしまったほうがいいのかなど、製品ごとに切り分けをしながら、知財戦略を練っています。

佐藤 インテリジェンスの世界と同じですね。諜報には「カウンターインテリジェンス(防諜)」と言って、情報が漏れないようにする仕事があります。情報はただ囲い込めばいいというわけではない。囲い込むことで、重要な情報が限定され、漏れやすくなることがありますし、そもそも情報はどこからか漏れていくものです。そこで、積極的にいろんな情報を出すことによって、ほんとうに大事な部分を守る「ポジティブカウンターインテリジェンス(積極防諜)」という手法があります。

木村 弊社には知的財産部があり、業界動向や世界情勢を知財を切り口に分析するIPランドスケープを「攻め」に活用するなど、かなり先進的な取り組みを行っています。同時に、「守り」の知財活動も行っています。特に海外です。国内ならきちんと知財を登録していけばいいのですが、海外はそれでは不十分です。

佐藤 中国ですね。

木村 ええ、中国と東南アジアです。新興国でどう知財を守っていくかは重要で、国内や欧米とはアプローチがまったく違いますね。

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