「うごかす、とめる。」技術を進化させる仕組みを作る――木村和正(ナブテスコ社長)【佐藤優の頂上対決】

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発明者割合

佐藤 先ほど技術オリエンテッドとおっしゃいましたが、やはり理科系社員が多いのでしょうね。

木村 半分くらいです。研究開発や設計で23%、生産・製造関係で30%強です。高いシェアを支えているのは、彼らの技術力です。

佐藤 資料に「発明者割合」という言葉がありました。これはどんな指標なのですか。

木村 知財戦略の一つで、研究開発・生産技術部門の社員は全員が年に1件、知財創造届出を出そうということで、全員が出せば100%です。出す人も出さない人も、複数出す人もいます。それらをカウントして、いまは62%ほどです。

佐藤 つまり1年間に特許やアイデアなど知財を創造した人の割合ということですね。知財関係の指標はいつから取り入れられたのですか。

木村 2017年からです。その年の知財創造届出件数は486件でした。その後、順調に伸びて2021年には831件になっています。

佐藤 すごいですね。1日に2件以上の発明がある。

木村 評価や賞与に反映されますから、それがインセンティブになっているのでしょうね。さらに2022年1月からは、技術者だけでなく全社員を対象に、発明のきっかけをもたらした人にポイントを付与し、一定のポイントがたまると表彰する制度も導入しました。

佐藤 こちらは生産・製造部門も営業部門も対象になるのですね。

木村 私は製造部門中心に歩んできましたから、生産・製造が非常に大切であることはよくわかっています。モノづくりにおいて、開発と生産は両輪です。一方、営業にも多くの無形のノウハウがある。また営業から「こんなものがあったらいいね」という形で研究開発部門へヒントが与えられることもあります。そうしたことにも報いていきたい。

佐藤 社内アイデア事業制度もあります。

木村 こちらは「Light」と言って、昨年の10月から始めたばかりです。これが目指しているのは、社員の自発的なアイデアを基にした新規事業の創出です。選考やワークショップを経て、ベンチャーユニットを作り、事業化につなげる。つまり起業家精神を会社に芽吹かせたいのです。

佐藤 いわゆる社内起業の取り組みですね。

木村 次の経営者を育てるという意味でも、挑戦することを楽しみ、修羅場をくぐりながら事業を組み立てていける人材を掘り起こしたいんですね。さらにそれが企業としての成長の種になっていけば、こんなうれしいことはない。

佐藤 これも全社員が対象ですね。

木村 はい。審査に通れば、予算として100万円が与えられ、就業時間の2割をその事業に充てることができます。

佐藤 もうアイデアが集まってきているのですか。

木村 すでに審査を行っていまして、面白そうなものが複数あります。

佐藤 いろいろ仕掛けを作って、人材育成に力を入れているのが感じられます。

木村 会社の礎(いしずえ)は人材だと思っています。中期経営計画が昨年から始まりましたが、重要なポイントは人事制度改革です。いまIoTやDX、ソフトウエアの分野では、社内に人材が足りていませんし、採用も難しくなっています。また外から人を呼ぶには、既存の社員とのバランスを取りながら、それなりの制度を作らなければなりません。

佐藤 どのような方向で改革されようとしているのですか。

木村 これまではずっと日本的なメンバーシップ型の人事制度でした。そこにジョブ型の要素も取り入れつつ、弊社に合った形の人事制度が作れないか、いま考えているところです。また、これからはやはり多様な人材が必要です。そういう人が入ってきても、うまく働けるようにしないといけない。

佐藤 多様な人材を集めると、中間管理職の資質が問われてくると思います。私は昔話の「桃太郎」は中間管理職のリーダーシップの話だと思っているんですよ。桃太郎はサル、イヌ、キジを従えていますが、それぞれ仲が悪い。でもそれをリーダーシップでまとめて鬼退治に行く。

木村 ああ、確かにそうですね。

佐藤 しかも恩賞はきび団子という非常に小さな報酬です。

木村 そこはちょっと身につまされますね(笑)。

佐藤 ただ恩賞が大きければいいというものでもない。健全な愛社精神が必要です。また外から来た人は、さらにいい条件が示されればよそに移ってしまうという問題もある。

木村 そうですね。だから社内教育も大事で、デジタル人材を社内でも育てるようにしています。その一つとして、まず部長職以上に適性検査を行い、デジタルに適性のある方をピックアップ、彼らから再教育して、そこから全体に広げていこうとしています。

佐藤 それはいいですね。DX人材不足といっても、そもそも理系でプログラミングや情報工学を学んだ人は圧倒的に少数派です。それよりデジタルを身に付けないと生き残れないという緊張感の中で学ばせた方がいい。その方が身に付きます。ロシア語でも大学で第二外国語として学んできた人より、外務省に入ってから緊張感のある中で学んだ人の方が圧倒的に使い物になりましたから。

木村 緊張感は必要ですね。もちろん従業員に対する教育やセーフティーネットはきちんと担保していきますが、完全に安全なところにいると、緊張感がなくなり新しいことも生まれません。ワクワクして新しいことに取り組むことと、緊張感やヒヤヒヤ感は表裏一体です。そこを理解して仕事をしていく人が増えれば、会社はほんとうに面白い場所になると思います。それができる制度を整えていきたいですね。

木村和正(きむらかずまさ) ナブテスコ社長
1961年神奈川県生まれ。芝浦工業大学工学部卒。84年ナブコ(現・ナブテスコ)入社。鉄道車両機器事業に20年間従事した後、2004年に精密減速装置事業の津工場へ。11年津工場製造部長、12年油圧機器の垂井工場製造部長などを経て、17年執行役員に。19年取締役、21年常務執行役員。22年より代表取締役社長CEO。

週刊新潮 2023年2月16日号掲載

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