空き巣に狙われている“前兆”とは 防犯のプロが教える「お金をかけずにできる防犯対策」

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「ルフィ」らによる連続強盗事件への社会的関心は極めて強く、その結果としてセコム等セキュリティー関連会社への注目も高まっている。

 凶暴な強盗犯に目をつけられて大切なものや命を奪われたら……そんな不安を抱えるのは、資産家であろうとなかろうと同じだろう。

 どのようにすれば家や家族、自分を守れるか。

 元警察庁犯罪予防研究室長で犯罪学者の清永賢二氏は、そのキャリアの中で異色の研究を行っている。泥棒のプロたちの視点を徹底的に分析することにしたのだ。

 対象は、主に犯罪者の中でも天才的と称された「忍(の)びの弥三郎」と「猿(ましら)の義(ぎ)ちゃん」という二人の人物。

 「忍びの弥三郎」は、獄中で書いた6年分の日記と、死に臨んでベッドサイドで行ったヒヤリング記録とビデオテープ記録が存在する。その日記は犯行の記録であると共に、防犯のための教訓に満ちている。

「猿の義ちゃん」に対しては、15年以上に及ぶ清永氏との会話記録、自筆の文章とビデオテープ記録。こちらも教訓になるという点では同様だ。

 他にも捜査関係者が「プロ中のプロ」と呼んだ強盗犯らへの聞き取りをもとに、清永氏が書いたのが『犯罪者はどこに目をつけているか』である(清永奈穂氏との共著)。

 捜査側のプロが犯罪のプロからの話をもとに導いた「守り」の鉄則をご紹介しよう(以下、『犯罪者はどこに目をつけているか』をもとに再構成)。【前後編の前編】

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家の中の守りについて

 まず、日頃用心すべきは情報の管理である。「忍びの弥三郎日記」からアドバイスを抜いてみよう。

「人の口に戸は立てられぬという言葉もあるとおり、絶対極秘としている事柄もとかく人から人へともれてしまう訳であれば、金庫や高額品の在り場、この旋錠箇所、又防犯の設置、不設置、有人か無人かというように、秘密は完全にもらさないことに重点を置くべきであること」

 犯罪者は情報で勝負する。たとえ犯罪者であることをやめたとしても、それは慢性的な「癖(へき)」となって、終生まとわりつくという。

親しい人への話も要注意

「うちは金庫があるから大丈夫」、「判子(はんこ)はいつもあそこに置いている」、「私が持っているダイヤは何カラット」、「何かあった時に備えて、○万円は現金で置いている」とうっかり親しい人に話す。その人が別の誰かに話す。

 情報は一度流れると止まらない。その連鎖の中で犯罪者に情報が入ると、狙う家の的絞りに大きく貢献する。「持っている」「家のどこにある」という所有物と場所についての情報は、それが高価であるほど吹聴(ふいちょう)したいものだろう。しかし、決して漏らしてはならない。

 情報は、必要とする誰かに伝わるものだ。入手した者によっては単純窃盗だけでなく、強盗から殺人事件へとつながりかねない情報である。2000年、都内にある警備会社の金庫から6億円が強奪される事件が起きた。そのきっかけは、元警備員が客として行った理容店で何気なくもらした内部情報(ガードの甘さ)だったという。

金庫は危ない

 高価な金庫があるから大丈夫、という考えは甘い。そもそも金庫ほど危ないものはない。金庫が破られたら、一挙にすべてが盗まれる。金庫には火災に強い防災金庫、泥棒に強い防犯金庫がある。防災金庫は非常に容易に開けることができる。防犯金庫は開けるのは難しいが、支柱で地中にしっかり固定していない限り、丸ごと持ち去られる。

 小柄な猿の義ちゃんでも、重さ120キロ前後の金庫を背負って逃げたことがあるという。「スーパープロ」や「プロ中のプロ」になると、アスリート並みの身体能力を持っていることがある。

「昔、爺さんと婆さんの二人暮らしの家に、コツコツたためた大枚の現金があるのを知って狙いました。二人とも病院に出かける隙があったが、家の周りは格子(こうし)があり、厳重で、どこを探しても入れそうな場所がない。考えた末、家の横にある大きな木に登り、枝を揺すってブランコの要領で屋根に飛び移りました。

 家の間取りは前もって頭に入れていた。ここだ、と思う場所の屋根瓦をはずして天井裏に入り、押入れのベニヤ板を足で壊し、中にあった手提(てさ)げ金庫を小ドライバーで壊し、大金を手にグッと握った。こういう手口は初めてだったが、自分が狙ったら絶対に不可能という家はなかった」(猿の義ちゃん)

一人でいるという情報は出さない

 日常生活で注意すべき「情報管理」は他にもある。「家にいる人数」がその代表であろう。犯罪者は、狙った家にいるのが一人かどうかを非常に気にする。だから電気メーターの回転や郵便受けを見る。窓ガラスに小石を投げてみる。あるいは電話をかける。

 それに対して「今は誰も居なくて、6時過ぎにならないと帰ってきません」などと答えてはならない。今から数時間は一人、という貴重な情報を犯罪者に与えてしまう。そう答えたのが幼児や高齢の女性なら、犯罪にはもってこいである。

 新聞や訪問販売を装った問いかけに、「今から出かけるので後にしてください」と言うのも駄目だ。さらに宅配便や届け物があるというので、判子や現金を置いている場所に直行してはならない。特に子どもはそうだが、それら貴重品を置いている場所の情報を与えてしまう。

無駄な暴力的抵抗は控える

 寝ている部屋にまで侵入され、何かを強要された場合はどうするか。体力十分な男性、よほどの心得がある者でないかぎり、抵抗するのは危険である。

 異常なほど図々(ずうずう)しいか、被害者の生活を熟知している場合を例外として、ほとんどの犯罪者は自分もおびえている。「殺すぞ」という脅し文句は、犯罪者自身のおびえの裏返しであることが多い。しかし生半可(なまはんか)な抵抗をすると、犯罪者のおびえの反動として凶行に至る可能性が高い。ばったり顔が合ってしまい一突き、はあり得る。

 2011年、東京都下で、無人の女性方に侵入して室内を物色していた男が、帰宅した女性の胸を刃物で数回刺して失血死させるという事例があった。生命・体を求める以外の要求(金を出せ、金のありかを言え)には従う。その代わり、声や言葉の訛(なま)り・顔つき・身長・髪形・年齢・服装などをしっかりとらえておく努力をする。そして一刻も早く警察に通報する。110番で地域全体に通じる。

 生命・体を求めてこなくとも、女性は「寝乱れたふうな様子の髪や肌(特に手足)」を一部でも見せてはならない。生命・体を求める要求には、自分の命とその要求とのバランスを考える必要がある。一般的「答え」は出ていない。

 ただ、その要求を拒絶したいなら、野獣のような決死の抵抗をする他ない。「助けて!」と叫ぶだけではない。かみつき、加害者の肉を食いちぎるほどの意思を持って挑みかからねばならない。犯罪者との闘いは、野獣との闘いである。

 ともかく大切なのは、「一人で寝ている部屋にまで侵入させない」ことだ。ふだんから戸締りを忘れないのはもちろん、2階がある場合、特に2階の戸締りを忘れないことだ。

 マンション上階だからベランダ側の窓を開けていても大丈夫、ということは絶対ない。屋上からの降下、ベランダの横を通る雨樋(あまどい)や水道管のつたい登り、階下のベランダ上端からの乗り上がり、隣室ベランダの石膏ボードを破っての侵入など、犯罪者の中には「上階(高い所)ほど、死角を突いてやりやすい」と豪語する者がいる。

一人寝に防犯ブザーを

 深夜一人で寝入っていて、別の部屋あるいは庭先で物音がした時ほど背筋が凍ることはない。頭では考えても、身動きができない金縛(かなしば)り状態となる。手の先を布団の外にちょっと出すことさえもできなくなる。

 こうした時に備えて、防犯ブザーを毎晩布団の中に入れて寝るよう、習慣づけることをお勧めする。犯罪者は音・光・モノ(人や物)を嫌う。犯罪者自身、忍びこんだ家で何が起こるか分からないと恐れている。忍びこんだ先が警察官の家かもしれないのだ。

 隣室や庭で変な物音を耳にし、どうにも怖い、不安だとなったら、布団の中で防犯ブザーの栓を引き抜き、部屋の遠方に投げる。できれば、音を出すのと同時に発光するタイプのブザーが望ましい。そして布団を被(かぶ)り、耳をそばだてる。すぐ動けるように膝は折っておく。

 防犯ブザーは電池がなくならないかぎり、止めなければずっと鳴り続ける。これはこれで困ってしまう。だから前もってブザーに長いひもを付けておき、何事もないようなら手元にたぐり寄せられるようにしておけばよい。こうした状況下では、何もないとは分かっていてもなかなか布団から出られない。

 防犯ブザーは布団の中だけでなく、自分の家の廊下、さらに旅先でもこの対策は有効である。人が通らないベランダの下や家の間の通路にひもを張っておいて、鳴るようにしておくのもいい。

 泥棒側の意見を見ておこう。再び、「忍びの弥三郎日記」から。

「不幸にして、夜中に泥棒に侵入された場合、その時点での泥棒との距離にもよるが、逃げ場を持たない場合は、決して大声を発してはならない。大声を発して隣人に届くような日頃からのあなたの感じならば、泥棒も驚くほどの大声を発して助けを求めるもよいが、日頃の勘で無理と思う場合は声を発せずして、泥棒を見て見ぬふりをして、冷静に自己判断を保って待機することである。

 泥棒自身の逃げ場がなくなるような、例えば室内の奥深くにまで侵入物色していたり、あなたを飛び越えなければ逃げられないような泥棒自身の居場所である場合は、完全に泥棒は居直る恐れが充分となり、強姦にもなりかねないわけだから、この点日頃から充分心して生活すべきである」

 これからは、襲われた時にたまたま一人だったというだけでなく、年中一人で過ごさざるを得ない独居者、特に高齢者の「安全・安心」をいかに確保するかが大きな問題になる。すでに独居者を対象とした安全システムが登場しているが、費用もかかる上、24時間システムだけで体の安全を確保するのは不可能である。どうやって自分自身で危機を乗り越える力(安全基礎体力と呼ぼう)を付けさせるのか。重大な課題だ。

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 今回問題になっている連続強盗団は、常習犯ではあっても、プロではないかもしれない。しかしそれゆえの危険性もある。

 【後編:犯罪者に「狙われやすい家の共通点」とは 下見の際にチェックする“意外な箇所”】では泥棒の視点から、「家の守り」をさらに学んでいこう。

『犯罪者はどこに目をつけているか』(新潮選書)から一部を抜粋・再構成。

デイリー新潮編集部

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