橋爪功の高橋一生への愛がスゴい 地味ながら満足度の高い「6秒間の軌跡」

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 ものすっごく好きだよね、高橋一生のことを。ホームページのメインビジュアルといい、劇中のアドリブっぽいやりとりといい、エンディングのお便りコーナーといい、橋爪功が高橋一生を愛しすぎていて、なんだかおかしい。このふたりが親子を演じるのが「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」。個人的にもうれしい。一生も好きだが、登場人物が驚くほど少ないから。昨今のドラマは主要人物10人以上が当たり前で、絵に描きたいと思う人を全部描き切れず、歯ぎしり。ところがこの作品はたった4人。少数精鋭とも傑作とも言い切れないが、それぞれの表情をじっくり観ることができるので、満足度は高い。

 一生が演じるのは、ややコミュ障気味の花火師・星太郎。師匠で父親の航(こう・橋爪)が亡くなり、コロナ禍で花火大会は中止の連続。商売あがったりで干上がりかけたそのとき、航がひょっこり現れる。ええ、幽霊です、今期はやりの。死んだはずのオヤジが神出鬼没で姿を見せ始め、戸惑う星太郎。同時に、花火を上げたいという客が訪れる。

 本田翼演じる水森ひかりは、30万円で自分のためだけの花火を注文。つっけんどんな物言いのひかりは謎めいていたものの、失恋を機に「あってもなくてもいいもの」を捨て始めたら、部屋は空っぽに、ついでに実家も仕事も捨ててきたという世捨て人だった。

 初めは、ひかりも幽霊なのかと思っていた。望月煙火店には霊道でも通ってんのかな、ちゃんとした浄霊が必要だわと心配したものの、ひかり、ちゃんと生きていました。星太郎の幼なじみで工務店社長の田中勇人(演じるは小久保寿人)にも見えていたので。そして、ひかりは住み込みで働きたいと申し出て、縁もゆかりもない星太郎とひかり、航(ひかりには見えない)の3人暮らしがスタートする。

 特筆すべき点が現段階であまり見当たらないのだが、おそらくこれから父と息子の知られざる過去が浮上するのだろう。航が死ぬ間際に「すまん」と謝った理由、星太郎が母親についてかたくなに語ろうとしない点など。また、低体温だがある種の達観を感じられるひかりと、人付き合いが苦手な星太郎が相互理解を深めていくに違いない。相互理解というか、恋か。下手な恋よりも、師弟関係のほうがいい。昨今の流行からいけば、ね。

 ともあれ、打ち上げ花火のような華々しさはなく、非常に地味な作品だが、見どころとしては「コメディーの名手でもある橋爪の暴走を、いかに一生が受けとめるか、あるいは受け流すか」。そして「軽妙な父と同じDNAに、いかに寄せていくか」。じっくり観ていると、なんとなくこの父と子、似ているような気もしてきて(鼻の下や口角のあたりが)。性格は正反対でも、父子っぽさが垣間見える気もする。

 また橋爪の「ふがいない息子に対する慈愛と諦観」には別の意味で味わいも。橋爪遼、元気にしてるかな。結構好きな役者だったなぁ。

 半眼がちな翼と頼りがいのある小久保が、この父子にどう影響を与えていくのかも、じっくり観ていこう。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年2月16日号掲載

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