水産会社から「新しい“食”」を創造する会社へ――浜田晋吾(ニッスイ代表取締役社長執行役員)【佐藤優の頂上対決】

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日本の水産技術

佐藤 水産の方は、養殖の比重が大きくなっていますね。

浜田 現在、小さなところも含めると、国内外71カ所で養殖を行っています。日本全体の漁獲量はかつて1200万トン以上ありましたが、いまは400万トン余りです。海洋資源は有限ですし、海水温の上昇や海流の変化などで、天然魚はボラティリティー(価格変動性)が高い。ですからある程度は我々が手をかけ、きちんと育てていかなければなりません。いま弊社グループでは養殖で14万トンほど扱っています。

佐藤 魚種は何が中心ですか。

浜田 私どもで多いのは、サケ、ブリ、マグロですね。一度、見学いただくと面白いと思うのですが、ブリでは家系図を作成し、ブリ一匹から、その親は誰か、祖父母は誰か、全部遡れます。当社は育種の研究にも力を入れており、家系図をもとに近親交配を避けて遺伝子操作をせずにいい血統を掛け合わせてきました。

佐藤 メンデルの世界ですね。

浜田 そうです。私どもは採卵時期などもコントロールして、冬場に取れるブリを、春も夏も同じ形、品質でお届けできるようにしています。

佐藤 ブリはどこで養殖しているのですか。

浜田 宮崎県串間市などですね。サケだと、日本では鳥取県境港市や東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町など、また南米のチリでも育てています。

佐藤 サケは溯河(さくか)性魚種ですから、やはり川から海に放つのですか。

浜田 最初は陸上にある淡水養殖場で孵化させ、ある程度大きくなったら、海の養殖場に放ちます。昔は川に流してどこかに行って戻ってこいという感じでしたが、私どもは最初から最後まで育て上げます。

佐藤 養殖は今後、どんな魚でも可能になるのでしょうか。

浜田 養殖方法は、魚の種類によって違います。私どもはブリとともにカンパチも養殖していますが、見た目は似ていても養殖方法は全然違うんですよ。養殖は魚種ごとに一つ一つ方法を確立していかねばならない。しかもニーズがあり、ある程度、価格面でも採算の合う魚から研究していくことになります。

佐藤 日本の養殖技術は、世界的に見ても非常に発達していますよね。

浜田 はい。江戸時代から培われた養殖の歴史が現代の技術を支えているものと思います。

佐藤 日本の技術ということでは、魚油からEPA(エイコサペンタエン酸)を抽出する技術もお持ちですね。私は、かなり体重がありましたから、それを原料としたエパデール(高脂血症治療薬)にはずいぶんお世話になっています。

浜田 あれは持田製薬と10年ほど共同開発してできたものです。もともと千葉大の先生が1979年に駅に貼られていた弊社のイメージポスターを見て、魚ならニッスイだ、と連絡してきたことから実地検証が始まったそうです。そして1990年にEPA医薬品の承認許可を得ました。

佐藤 中性脂肪や高血圧に効果があります。それでいて、副作用がほとんどない。

浜田 自然のものですから。

佐藤 これも後発の会社があります。

浜田 やはりこの分野も先発の利があり、魚から抽出したEPAをある程度濃縮することは他でもできますが、弊社のように98%とか99%の高純度に精製したり、あるいは魚の匂いを完全に取り除き、脱色して透明にするという技術は、そう簡単にはできません。また私どもはパテント(特許)も取っています。

佐藤 お医者さんもニッスイさんのものは品質が違うと言いますね。

浜田 弊社ではEPA関係をファインケミカル事業と呼び、一昨年からはアメリカへの供給も始めています。いま世界中でこのEPAが属するオメガ3という油脂が注目されていて、それが追い風になっています。

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