水産会社から「新しい“食”」を創造する会社へ――浜田晋吾(ニッスイ代表取締役社長執行役員)【佐藤優の頂上対決】

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 冷凍おにぎりやちくわなどの定番商品が大きく伸長し、すでに食品事業は水産事業を上回っていたというから、社名変更は当然の流れだった。「日本水産」改め「ニッスイ」となった老舗企業は、今後どんな会社になっていくのか。目指す「新しい“食”」とは何なのか。その未来戦略の概要。

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佐藤 昨年12月に社名を「日本水産」から「ニッスイ」に変更されました。100年以上続く会社ですから、たいへん大きな決断だったのではないですか。

浜田 弊社は1911年に一隻のトロール漁船から始まりました。かつては遠洋漁業が中心でしたが、1977年に他国の200海里水域内に入っての操業ができなくなり、漸次撤退を余儀なくさせられました。このため、食品事業を強化しファインケミカル事業にも進出して、それらが大きく伸びてきたんですね。いまは水産事業よりも食品事業の方が大きい。それで社名にある「水産」という言葉をどう考えるか、以前から議論をしていました。

佐藤 食品事業が水産事業を上回っているとは驚きました。

浜田 2021年度の売上高で見ると、水産事業が2878億円、食品事業が3286億円です。営業利益でも、水産の127億円に食品が154億円と、食品の方が多い。

佐藤 事業の構成が変わったのですね。

浜田 社名変更に先立ち、昨年の4月に長期ビジョン「Good Foods 2030」と中期経営計画「Good Foods Recipe1」を発表しました。この時に新しいミッションも定め、そこからも「水産物」や「海洋資源」という言葉を抜いているんです。

佐藤 どんなミッションにされたのですか。

浜田 「私たちを突き動かすもの。それは『人々により良い食をお届けしたい』という志。海で培ったモノづくりの心と未知を切り拓く力で、健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい“食”を創造していきます」というものです。

佐藤 水産から総合的な食品会社を目指すのですね。

浜田 もちろん水産は大事な原料で基礎的事業ですが、私どもは、焼きおにぎりや枝豆、ちくわなどを作り、医薬品の原材料も供給しています。水産にこだわらず、農産物も畜産物も扱っている。そしてこれからも「食」全般の事業をやっていきます。そこでミッションと社名のいずれからも「水産」という言葉を外したのです。

佐藤 消費者には、すでに食品のブランドとして「ニッスイ」という言葉はなじんでいます。ですから、ニュースを目にした人は、逆に会社名は日本水産だったんだ、と思う人が多かったかもしれませんね。

浜田 そうですね。海外でもニッスイブランドで展開していますので、違和感はないと思います。ブランド名に社名を合わせた形ですね。

佐藤 食品事業では、何といっても焼きおにぎりが有名です。

浜田 おかげさまで、家庭用冷凍おにぎり市場では一番よく売れています。

佐藤 いま焼きおにぎりは冷凍食品棚の定番商品になっていますが、昔はそれほど一般的ではありませんでした。カラオケ店で当たり前のように焼きおにぎりが出てくるのは、御社が作った文化といえるかもしれません。焼きおにぎりの普及に非常に大きな役割を果たされた。

浜田 確かに握ったおにぎりはそのまま食べてしまい、焼かなかったですね。

佐藤 圧勝の秘訣(ひけつ)はどこにあるのでしょうか。

浜田 先発の利でしょうね。私どもはまず業務用で出発し、それから家庭用に展開しました。それが1989年のことです。その後、各社が参入してきましたが、初期段階で購入していただいたお客様が定着してくださった。そして中までお醤油の味付けをきっちり行い、火で焼き目をつけていることも支持されている要因だと思います。

佐藤 確かに焼き目が食欲をそそります。

浜田 技術部門が何度もやり直しをしながら開発したと聞いています。その製造機械も、機械工学をやっている社員たちで開発しました。

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