客のモラルの問題だけではない「回転寿司の迷惑行為」 今後、安心安全を求めて向かうのは「グルメ系」

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 スシロー、はま寿司、くら寿司といった回転寿司チェーン店で、客の迷惑行為が相次いで発覚している。「今回の迷惑行為は、回転寿司のビジネスモデルの根幹にかかわるもの。このまま客足が戻らない可能性もある」と指摘するのは、回転寿司評論家の米川伸生氏である。

学生グループが集まりやすい店

 発覚した迷惑行為は、「一度手に取った皿をレーンに戻す(くら寿司)」、「他の客が注文した寿司にわさびをのせる(はま寿司)」、「テーブルに備え付けの醤油の容器や湯吞みを舐め、レーンを流れる寿司に唾液を付ける(スシロー)」など、衝撃的なものだった。

 迷惑行為が発覚し、1月31日のスシローの株価 は大幅に下落。一時、時価総額が約170億円減という報道もある。

「迷惑行為を客のモラルの問題として片付けてしまっては、一度離れた客は二度と戻ってこないでしょう。悪いことをする客はどんな時代でもいたはずですが、今はSNSによって問題が発覚しやすくなっています。しかも大手の回転寿司チェーン店には、迷惑行為をしやすい環境が整ってしまっています」

 そう語る米川氏は“店員の目の届きづらさ”が背景のひとつにあると指摘する。

「回転寿司チェーン店の中には、入店して席に着き、食事を終えて会計をするところまで、一切店員に会わずに機械を操作するだけで済んでしまうところもあります。ここまでオペレーションが簡略化された飲食店は、回転寿司の他にはないと思います。悪いことをしようという人にとっては、店員の目が届かず、しかも仲間内しか見ていないため、何でもしていいような気になってしまうのです」

 今回の迷惑行為の動画に写っていたのは、10代から20代に見える若者だった。回転寿司チェーンに若者のグループ客が多いことも影響していそうだ。

「2014年に、くら寿司が東京・豊島区の池袋駅前にオープンして、高校生や大学生のグループがたくさん来るようになりました。それまでは、若者が放課後に寿司を食べに来るなんてことはまずなかったですから、回転寿司チェーンが学生の放課後の過ごし方を変えたと言ってもいい。それ自体は良いことですが、今回の迷惑行為を考えると、若者が集まりやすい店になったからこそ、いたずらの抑止力として、店員の監視の目が必要だったんだと思います」

殺伐としたお店に変化

 長年、回転寿司店に足を運んできた米川氏は、機械化によって店の雰囲気も変化したと感じている。

「すべてが機械操作で済むことは、感染症対策の面でも有効でしょうし、何より人件費が抑えられるので、安価で寿司を提供するための企業努力の成果だと思います。ですが、回転寿司チェーンはここ数年で、楽しくくつろぎながらお寿司が食べられる空間から、店員がいないため殺伐とした雰囲気に変わってしまったと感じます」

 雰囲気の変化に加え、値上げによって回転寿司チェーンは苦境に立たされていた。

「家族4人で食事をしても5000円で済んでいた時代もありましたが、今はそれでは済みません。スシローとくら寿司は値上げに踏み切り、各社が高価格帯の商品に力を入れています。それなら回転寿司じゃなくて、もう少しお金を出して焼肉にでも行こうとなる。回転寿司の優位性は、どんどん失われています」

 チェーン店が苦境に立たされる一方で人気を集めているのが、金沢まいもん寿司、根室花まる、回転寿しトリトンなどの、「グルメ系回転寿司」と呼ばれる店だ。その特徴は、職人が寿司を握ること、鮮魚を仕入れていること、地域密着の店が多いことなどが挙げられる。

「グルメ系回転寿司の一皿あたりの値段は全国チェーンより高いですが、その差は大きくありません。客単価でいえば、グルメ系回転寿司が1800円程度、スシローは値上げの影響で今や1300円くらいです。せっかくお寿司を食べに行くのなら、ちょっとお金を出してグルメ系回転寿司に行こうという人が増えています。目の前で職人が寿司を握り、店員の目もあるので迷惑行為が行われることはまずないというのが安心ですよね。客層も落ち着いており、チェーン店と比べて年齢層が高いです」

 これだけの迷惑行為が取り沙汰されれば、安全面から「グルメ系」にシフトする動きもありそうだ。

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