現代アートの芸術祭は地域をどう開いていったか――北川フラム(アートディレクター)【佐藤優の頂上対決】

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2千回の打ち合わせ

佐藤 この地域に、ジェームズ・タレルやクリスチャン・ボルタンスキー、イリヤ&エミリア・カバコフといった現代美術を代表するアーティストの作品が突如として現れた。よく実現にこぎ着けましたね。

北川 最初は「アートでまちづくりなんか、できるわけがない」とか「現代美術という意味のわからないものに、お金をかけるなんて無意味だ」など、散々でしたね。当時のスケジュール帳を見てみると、3年ほどの間に2千回を超える打ち合わせをしているんです。

佐藤 途方もない回数です。

北川 最初はひたすら説明会と会議を繰り返しました。まず担当者と話し、次に課長、さらに助役と話す。そして市長や知事とも話しました。一方、各集落にも1日に2~3カ所、何度も回ります。そうやって繰り返し説明していると、「しょうがないから、やらせてやれ」みたいな感じになっていったんですよ。

佐藤 地方では役場の職員はエリートですからね。強い権限がある。しかし同じ話をするのも、普通は3回が限度じゃないですか。

北川 それは条件ですから、こなさないと前に進まない。もう楽しむようにするしかなかったですね(笑)。

佐藤 野外で展示する作品が多いわけですから、アーティストはそこで作品を作ることになりますね。

北川 作品を成立させるには、その土地の材料を使ったり、場所を借りたり、またさまざまな人の手が必要になります。つまり地域ぐるみで面倒を見ないと制作はできず、しかもアーティストにはそれぞれこだわりがあります。だから、アートは赤ちゃんみたいなものです。弱くて、言うことを聞かず、お金もかかる。でもだからこそ、人を引きつけるものだともいえるわけです。

佐藤 その地域には前の開催時の作品も残っているのですか。

北川 雪がありますから、150くらい作っても30作品ほどしか残りませんね。そこにまた新たな作品を足していく。第8回は38の国と地域から263組が参加し、333点の作品を展示しました。

佐藤 設置したり、運営するのにも人手が要りますね。それはどうされているのですか。

北川 「越後妻有」には「こへび隊」、「瀬戸内」には「こえび隊」というボランティアのサポーターがいます。前者は3千人、後者は1万人以上です。首都圏の若者を中心に、下は10代から上は80代までが全国から集まってくる。近年は半分近くがアジアなど海外からの参加です。現場では、彼らが地域の方々との間を取り持っています。最初は訪問しても門前払いが当たり前でしたが、一所懸命にアーティストと作業しているのを見て、地元の方々の「じゃあ、手伝ってやろうか」という雰囲気が徐々に醸成されていきました。

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