「電車内で奇声をあげる男性にぶつかられて…」 山陽電車を動かした一件の相談

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ポスターの効果は?

 2021年11月には、全国の鉄道会社が研究発表を行う「第42回運転業務研究発表会」(主催・一般財団法人日本鉄道運転協会)において、会長賞を受賞した。

「新聞などでも取り上げられ、SNSを通じて全国から好意的な意見が寄せられています」

 ポスターを掲出することでトラブルは減ったのだろうか。

「実は、これまでお客様から会社にご意見をいただくことは、年に数件程度でした。ですので、ポスターの効果で減ったのかというのは分からないんです。ポスターを見て『そういう理由があったんや』と好意的に見てくださっている方が大勢いるのだと思います。とはいえ、ポスターが貼られる前からお客様の多くは、知的障害のある方が大きな声を出したり、電車内を歩いているのを見かけても、暗に理解してくださっているといいますか、行動の具体的な理由は分からなくても見守ってくださっていたのだと思います」

イラストもデザインも社員の手で

 ポスター製作の中心を担ったのは、発案者の一人で当時姫路駅に勤めていた車掌の樫原雛乃さん(23)だ。

「キャッチフレーズ『私のことを知って下さい』というのは、彼女が考えました。障害のある方と同じ目線に立って、理解を求めるポスターにしたいという思いが込められています」

 学生時代にデザインを学んだ経験を活かし、イラストの作成やポスターのデザインも樫原さんが手掛けた。こんな“気づき”もあった。

「細かな修正は何度も行いましたが、実は一度、イラストのデザインを大幅に変更しています。最初は、親しみやすいポスターにしようと可愛らしい子どものイラストにしていました。それを『手をつなぐ育成会』のみなさまにお見せしたところ、『実際に電車の中などのトラブルで困っているのは成人が多い。子どもなら親が押さえるなどしてやめさせることができる』と教えていただきました。当事者ならではの視点だと感じました。いただいたアドバイスを反映し、大人のイラストでシャープなタッチに改善した今のデザインが完成しました」

 知的障害者の行動に対する理解を啓発する意図ではあるものの、その背景が分かっても不安が残る乗客のことも忘れない。

「乗客のみなさまに『障害から来る色々な行動について理解を求める』との思いで作ったポスターではありますが、電車内でお困りごとがあった場合は係員に伝えてください」

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