“門外不出”の高級カンキツ「愛媛38号」は、なぜ「中国産」としてカナダで勝手に売られているのか

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採算の悪化で急減した国産、付加価値を高めた中国産

 日本からカナダ向けに輸出されていたミカンは、単価が安く採算が悪いだけに、そこに手間をかける余裕がないのは理解できる。だが、そうであれば価格を上向かせる工夫や、より付加価値の高いものに切り替えていくといった対策ができたのではないか。

 現に中国は、高価格帯の輸出を強化している。温州ミカンやそれに似たマンダリンといった、単価が安くなりがちなカンキツ類の輸出額をここ10年減らし、その他のカンキツ類の額を伸ばしてきた(カナダ政府の統計による)。

 看過しがたいのは、こうした付加価値の高いカンキツが、往々にして日本生まれのブランドということだ。農研機構が開発した「はるみ」や「不知火」、愛媛県の「紅まどんな」など。付加価値の高い愛媛38号がカナダに輸出されたのは、当然の流れだったといえる。

 中国での報道を見ると、愛媛38号は早くも2018年に、四川省の企業によってトロントに1.3トン輸出されている。その後も断続的に輸出の情報があり、中国の企業によって数トン~数十トンの輸出が繰り返されている。バンクーバーで男性が目にしたのは、そうした輸出品の一部だ。

 開発者とされる愛媛県はどう受け止めているのか。

 県農産園芸課は、愛媛38号が他国へ輸出されていることを把握していないという。中国で愛媛38号の商標が取られていることに対応中としたうえで、「38号とされているものについて、本当に38号かどうかは確認が難しい。コメントできる状況にない」としている。

 関係者によると、中国で広がる愛媛38号を県で現地調査するのは、予算の面から難しいという。中村時広知事は1月26日の記者会見で「今から訴えるということになっても、証明する手間、それから裁判等々にかかる費用、期間を考えると、まあ、とてもじゃないけどできる話ではない」としたうえで、「本当に残念……仕方ないかなと思っています」と語った。このままだと、盗ったもん勝ちに終わりそうだ。

山口亮子
愛媛県生まれ。ジャーナリスト。京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信記者を経てフリー。執筆テーマは農業や中国。雑誌や広告などの企画編集やコンサルティングを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。2022年12月に、窪田新之助氏との共著『誰が農業を殺すのか』(新潮新書)を上梓。

デイリー新潮編集部

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