23歳でデビューした作家・荒木あかねの創作の相棒は、ボロボロのタオルケット? 名前をつけるほど溺愛する理由とは 

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顔も知らない人からのプレゼントが…

 そもそもこのじゃりじゃりは、母がわたしを出産した後、職場に復帰したときに当時の同僚からお祝いとしてプレゼントされたものだった。その同僚は母と特別親しい間柄ではなかったらしい。むしろ産休中に異動してきた人だったので、母は復帰するまで彼女の顔も知らなかったそうだが、律儀にもお祝いを用意してくれたのだという。彼女もまさか出産祝いの赤ちゃん用タオルケットがその後20年以上も寝室に置かれ、擦り切れ、ほつれても手放されることなく愛され続けるとは、思いもしなかっただろう。

 我が家では「もうそろそろ寿命なんじゃないの?」とささやかれているじゃりじゃりだが、わたしはこれからもじゃりじゃりのほつれを直し、擦り切れてできた穴を縫い、共によく寝て、健康的な生活を送りながら執筆活動を続けていく。そして、母の元同僚のあずかり知らぬところでじゃりじゃりがわたしの相棒となったように、顔も知らない遠くの誰かの胸を打つような作品を生み出していきたいと思う。背表紙が擦り切れるほど、とまでは言わないが、何度も読み返してもらえるほど愛してもらえたら、きっとうれしい。

荒木あかね(あらき・あかね)
1998年福岡県生まれ。九州大学文学部卒。2022年『此の世の果ての殺人』で第68回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。同賞の史上最年少受賞者である。

デイリー新潮編集部

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