「言うだけ番長はやめろ」と尹錫悦を叱った米国 広島サミットに招待しても食い逃げされる理由

  • ブックマーク

Advertisement

「よくある」韓国紙の改ざん

――改ざんそのものですね。

鈴置:韓国紙はこの手をよく使います。外国人の寄稿で韓国人に不愉快な部分があれば、韓国語版では削除するか、露骨に改ざんします。今回のケースは韓国人一般というよりも、保守派にとって不愉快な部分を改ざんしたのです。

 尹錫悦陣営は大統領選挙の際に「自由民主主義」を大きく掲げた。左翼候補と差別化する目玉でした。当選後も「米国回帰」を強調するためにそのキャッチフレーズを使っています。

 というのにチャ教授は「自由と民主主義に関しては左派と比べ保守は劣る」と決め付けた。保守の指導的メディアを自認する朝鮮日報は、“誹謗中傷”をそのまま載せるわけにはいかなかったのでしょう。

 民主主義を進めるのは進歩勢力、邪魔するのが保守――というチャ教授の見方は、30年以上前の固定観念に縛られていると思います。

 実際、文在寅政権の民主政治破壊には目に余るものがあった。軍事独裁政権時代に民主化を訴えた側のすることか、と傍から見ても思ったものです。左翼による民主主義の後退に関しては『韓国民主政治の自壊』第2章「あっという間にベネズエラ」を参照下さい。

 ただ繰り返しになりますが、チャ教授にすれば、尹錫悦政権の掲げる自由や民主主義が「口ほどではない」のも事実なのです。

半導体では文在寅と変わらぬ尹錫悦

――米国にとって、左派政権よりも「まし」なのだから、あまりうるさいことを言わなくてもいいのでは?

鈴置:平時ならそうです。しかし今は、中国やロシアと対決する時です。米国は韓国を完全に自国側に引きつけておく――中ロに対しファイティング・ポーズをとらせる必要があるのです。

 緊急課題が半導体です。米国は中国に先端半導体を作らせないよう、全力をあげています。1月5日、G・レモンド(Gina Raimondo)商務長官は西村康稔経済産業相とワシントンで会い、先端半導体の製造装置の対中輸出の規制に加わるよう求めました。

 製造装置で強みを持つオランダにも同じ措置を求めています。今回の日米協議では結論に至りませんでしたが、日本は基本的には受け入れる方向と見られています。

 会談後、西村経産相は「各国の規制動向を踏まえて対応する」と語り、オランダなど他国との競争上、不利にならない形で米国の要求を受け入れることを示唆しました。

 翌6日、西村経産相は通商代表部(USTR)のK・タイ(Katherine Tai)代表とホワイトハウスで会談し、「サプライチェーンから人権侵害を排除する」共同文書に署名しました。

 西村経産相は「特定の国・地域を念頭に置いたものではない」と記者団に語りましたが、もちろん、新疆ウイグルなどでの人権問題を念頭においた文書です。人権侵害だらけの中国。この共同文書を盾に日米は中国製品の排除に動ける体制を整えました。

 韓国は半導体製造装置は得意分野ではありません。しかし、半導体、ことにメモリーは世界の過半の生産シェアを誇ります。米国政府は韓国政府に対し、先端半導体の対中輸出と中国生産をやめるよう求めています。

 しかし、韓国は色よい返事をしません。経済的な打撃が大きいからです。韓国の半導体業界は自国で生産した半導体の約半分を中国に輸出する一方、前工程の相当部分を中国の自社工場に頼っています。韓国は主力産業である半導体で中国と一心同体なのです。

 政治的にも韓国は動けません。韓国が対中輸出規制に踏み切った瞬間、中国が報復するのは確実で、尹錫悦政権の土台を揺らします。「西側に戻った」と自称する尹錫悦政権が、半導体問題で文在寅政権と同様に曖昧な姿勢をとり続けているのはこのためです。

Quadに韓国を入れなかった米国

――だから、米国は韓国に「立場をはっきりしろ」と命じる……。

鈴置:その通りです。チャ教授の寄稿は彼の個人的な意見ではありません。米政府の総意なのです。もちろん、韓国系米国人のチャ教授とすれば、故郷の人々に愛情の籠った警告を送ったつもりかもしれませんが。

――でも、「愛情の籠った警告」は改ざんされてしまった……。

鈴置:ここに韓国という国の危うさがあります。都合のいい自画像を造りあげる。自画像の奇妙さを指摘されても一切、耳を傾けない――。自分は「西側に戻った」つもりなのです。当然、行動はピント外れになります。

 尹錫悦政権は先進国の称号欲しさに、日米豪印の4カ国の枠組み「Quad」への加盟を望みました。しかし米国はけんもほろろに断りました。

 中国は自身を包囲するQuadを何とか壊したい。韓国を入れれば、中国がQuadを潰す際の「最も弱い輪」になることが確実です。米国もそれは分かっている。

 そもそも韓国は中国の報復を恐れ「ベトナムやニュージーランドと共に、準メンバーとして入りたい」などと虫のいいことを言っていたのです。準メンバーとは「中国とは軍事的に敵対しないメンバー」を意味します。

 韓国がQuad入りを拒否された経緯については『韓国民主政治の自壊』第3章第1節「猿芝居外交のあげく四面楚歌」で詳述しています。

 J・バイデン(Joe Biden)政権は韓国の猿芝居をすっかり見抜いていますから騙されません。問題は、韓国の都合のいい自画像を信じ込んでしまう国があることです。

次ページ:専門家は嘘をつく

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。