職場の派遣女子に熱を上げたら「地獄でしたね」 42歳不倫夫が1日で味わった“2つの修羅場”

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絵梨さんとささやかに暮らしていければ…

 絵梨さんが被害届を出さず、ことが大きくなるのを嫌がったため、美希子さんの件が事件沙汰になることはなかったが、真相を知った絵梨さんの婚約者は激怒した。婚約破棄した上に、優也さんに慰謝料を請求するとまで言い出した。

 しばらく膠着状態が続いた。口々に「訴えてやる」と言いながらも、誰も動き出さない。優也さんだけが女性ふたりのところを出たり入ったりしていたが、最初に動き出したのは美希子さんだった。

「数日ぶりに家に戻ったら、もぬけのカラでした。美希子が子どもたちを連れて実家に戻ったようです。キッチンのガス台の上に離婚届が置いてありました。あとは弁護士と連絡をとってほしいとメモもあった。数日後には、絵梨のところに弁護士から慰謝料請求が来たそうです」

 こうなるとことは一気に展開していく。絵梨さんは婚約者に訴えられ、婚約者から優也さんに慰謝料請求がきた。

「あげく、妻から会社にも連絡が行ったようで、絵梨は派遣切りされました。僕も社内の風紀を乱したと叱責され、暗に退職を求められた。そうなったらもういられないですよね。自己都合で退職すれば退職金は出ると言われて、退職届を出しました」

 一文無しになっても、絵梨さんがいる。ふたりでささやかに暮らしていければそれでいい。優也さんはそう思っていた。ところが絵梨さんのところにいってみると、絵梨さんの部屋は開かなかった。連絡もとれない。

「その後、絵梨からメールが来たんです。実家に帰ります、と。ネットカフェあたりからのメールみたいでした。絵梨は携帯番号も変えてしまったようで、まったく連絡がつかなくなりました」

 妻か恋人か、少なくともどちらかは残ってくれると優也さんは踏んでいたのではないだろうか。一気にふたりともいなくなると想像していなかったに違いない。

すべてを失った

 その後しばらく、優也さんは家族のいなくなったマンションにひきこもっていた。辞めた会社から事務的な手続きの連絡があろうと、美希子さんの弁護士から連絡があろうと、まったく対処しなかった。というよりできなかったのだ。生きていく気力を失っていた。

「とうとう田舎から両親が来ちゃったんです。3週間くらい風呂にも入ってなかったし、たまに冷蔵庫や冷凍庫にあるものを少し食べたくらいで、ほとんど物を口にしていなかったので、両親の顔を見ても僕は無表情だったらしい。記憶がおぼろげなのですがそのまま救急車で病院に運ばれたようです」

 おそらく緩慢な自殺行為だったのではないだろうかと彼自身が言う。生きる気力をなくしたとき、人は精神的に死んでしまうのかもしれない。

「この数年は地獄でしたね。不倫と離婚、どちらも裁判にまでなってしまった。親にも迷惑をかけました。最終的に僕は経済的にはすっからかんになりましたが、ようやく昨年秋に事務的手続きも全部すみました。離婚も成立しました。僕はまだ無職のようなものなので、子どもたちの養育費は今のところ、父が払ってくれています。70代の父親に助けられているなんて、情けなくて」

 子どもに会いたいが、遠方の実家に戻った美希子さんと子どもたちに会いに行くお金がない。彼自身は今、学生時代の友人の親が所有するアパートにタダ同然で住まわせてもらっているのだ。数ヶ月前からやっとアルバイトを始めたところで、今も「何とか生きているだけの状態」だという。

「まだきちんと振り返ることもできないので、話があちこち飛んで申し訳ない」

 後日、彼からそんなメールが来た。それでも見捨てない親や友人がいるじゃないかと励ましたかったが、そんな言葉は今の彼には役には立ちそうにない。まだ若いのだから、絶望はしないでほしい。子どもたちにもいつかは会えるはず。そんなことも言いたいが、よけいなお世話にすぎないだろう。彼がしっかり両足で立つのを待つしかない。両親や友人も、そんな彼を見守っていこうと思っているはずだ。

 ***

 子育てが落ち着いてきたことでの“気のゆるみ”によって、不運なことにあれよあれよとすべてを失ってしまった――優也さんのここ数年間を彼の立場から語るとなると、こうなるだろうか。

〈妻か恋人か、少なくともどちらかは残ってくれると優也さんは踏んでいたのではないだろうか〉という亀山氏の指摘は鋭い。不倫のサインを出しても見逃してくれていた妻の美希子さんの豹変は彼にとって計算外だっただろうし、絵梨さんが二股をかけていた挙句、さっさと彼の元を去っていったというのもそうだ。優也さんが精神的に支障をきたしているのも、二人の女性に裏切られたという思いが強いからではないだろうか。

 ただし端から見れば、それは優也さんの過剰な被害者意識によるものだ。振り返れば不倫をしている間も、美希子さんに見当違いの怒りを抱いていた。妻にも恋人にも去られたのは、案外、優也さんの性格的な面もあるのではないか。事態を招いたのは不運などではなく自分に非があるときちんと認識すれば、過去を吹っ切れることができるかもしれない。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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