2022年ドラマ総括 辛口コラムニストが今年は敢えてワーストドラマを選ばない理由(後編)
2022年は現実が虚構を圧倒
アナ:そうだ、今年のワースト1位をうかがい忘れていました。一体、何になるんでしょうか?
林:2022年連ドラのワースト3、第1位は……
●ロシアによるウクライナ侵攻
●安部晋三暗殺と統一教会問題の再燃
●デフレの終わりと不況の予感
●「中国との戦争」祭り
……の4本です!
アナ:おお、そうきましたか!
林:ついでに今年の主演男優賞、ヒト・オブ・ザ・イヤーを発表するなら、小栗旬でもアベカンでもキムタクでも水谷豊でもなく、ウォロディミル・ゼレンスキーですよ。実際、彼はコメディアン時代、大統領役で連ドラに主演して大当たりをとる役者でもあったし。
アナ:いやぁ、2020年にも連ドラのワーストが現実の事柄(芸能人の相次ぐ自殺など)だった例がありましたが、いずれもドラマに関係するものでした。今回はドラマとの関係まで薄いですね。
林:いやいやいや、今年の連ドラが、出来もさることながら人気においても低調だった背景には、こういう現実のモロモロによる影響が大きいと、ワタシは踏んでいます。虚構ではないかと疑いたくなるような圧倒的な現実を前にした視聴者にとって、薄っぺらなフィクションなんぞ太陽の前の月、全裸の美形の前の半裸の十人並み。しかもその圧倒的な現実が、2月のウクライナ侵攻以降、次々と切れ目なく襲ってきている。ニュースや情報番組のほうがリアルで面白くて怖いときに、嘘臭くて安っぽくてつまらないドラマなんか見てられるかよという話ですわ。
アナ:それは一理あるかもしれませんね。実際、ニュースを扱うバラエティ番組がさらに目立つようになってきていますし。
林:現実が虚構を圧倒したという仮説を、忘年会で知り合いのギョーカイくん、というより年嵩のギョーカイさんに話したら、「“連ドラを見てる層は、情報番組は見ても報道番組は見ない層だ”という思い込みがあるけれど、今年くらい大ニュースが連発すると、それが間違いだとわからざるをえない」と言ってた。
アナ:今年、ドラマの視聴率が、海外ではどう推移しているのかなども見てみたいところです。
林:アメリカではここ数年、ドラマの作品あたりの視聴者数が減ってきているけれど、これはNetflixだHuluだAmazon Prime Videoだで配信されるドラマや映画が増えている影響が大きいから、今年、引き続き減少していても、要因を切り分けての分析がちょっと難しいかも。もちろん、日本の今年の連ドラ不人気にも、こういう配信サービスの普及は関係してるだろうね。
来年の展望
アナ:最後に、来年の連ドラがどうなるのか、林さんの考えを聞かせてください。
林:まずは世界規模で世の中が落ち着いてくれないと……というのが正直なところですが、ドラマの出来のほうでいえば、1月からスタートする民放の連ドラやNHKの大河などのラインアップからヒトを見たりホンを予想したりしているかぎり、あまり期待はできないかなぁと。
アナ:年が明けてもニッポンの連ドラ界は暗いですか。
林:タイトルと局、出演者の名を見聞きしただけで、絶対音感ならぬ絶対コケる感が発動する作品の多いこと多いこと。12本ある民放プライム帯連ドラのうち、「ひょっとしたら……」と淡い期待ができるのは、大石静が脚本、吉高由里子が主演の『星降る夜に』(テレ朝系/火曜21時)と、バカリズムが脚本で安藤サクラが主演の「ブラッシュアップライフ」(日テレ系/日曜22時30分)の2本くらいですわ。
アナ:林さんの言う「当たれば大当たり、コケれば大コケ」系の作品ですかね。
林:そのとおり。作品レベルではなく局レベルで見ても、22年に低調だったTBSにはフジ化の兆しがあるし、日テレは落ちた穴を自分でさらに掘り下げてる印象さえある。ただ、長らく低調だったフジのドラマづくりが底を打ったかもしれないという気がするし、テレ朝もシリーズもの以外のつくりの勘どころをつかんできたみたい。22年にはパンドラの函が開いて駄ドラマが次々と飛び出してきたけれど、函の底にはそういう希望も残っていて、23年はそのあたり期待をかけようかなと思ってます。
アナ:ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
林:次の年はベストにもワーストにも普通にドラマを並べられる年になってほしいもんです。憎まれ口たたくのも疲れるのよ。いや、本当に。
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