2022年ドラマ総括 辛口コラムニストが今年は敢えてワーストドラマを選ばない理由（後編）
長澤まさみよりも
林：「エルピス」では長澤まさみの評価が高いみたいだけれど、長澤まさみ＝吉永小百合説を唱えている身としては、今年は映画「シン・ウルトラマン」（東宝）でも「エルピス」でも、愚説が補強されちゃったなぁと、残念に思っています。
アナ：長澤まさみ＝吉永小百合説とは？
林：ギョーカイ人とファンは名優・大スター扱いするけれど、その環から一歩下がって冷静に眺めてみると、「なんか芝居がいつも同じ振れ幅じゃね？」「なんかギョーカイこぞって接待してね？」という、ひねくれたモノの見方です。
アナ：なるほど……と言ってはいけないんですが、わらかないと言っても嘘になります。
林：「エルピス」で芝居が凄いと思ったのは、むしろ眞栄田郷敦。チバちゃん（千葉真一）の息子で（新田）真剣佑の弟という先入観もあって、これまで上手いと思ったことがなかったから、放送が始まる前は、一座の中で浮きやしないかと勝手に心配してたんだけれど、ストーリーが進むにつれて顔相まで変わっていって、最後には役に憑依されてるレベル。演技の味の濃さでいえば、長澤まさみの吉永小百合風な仕草と足して2で割るとちょうどいいくらいでした。
アナ：言われてみると眞栄田さん、回が進むごとに本当に顔つきが変わっていました。しかし、あいにく「エルピス」、視聴率の面では振るいませんでしたね。
林：メディアものは当たらないのが常だし、制作側もそれは重々承知していて、商売としての大ヒットは狙っていなかったと思うよ。だからこそ、鍵となる脚本に、民放の連ドラを書くのは初めてとなる渡辺あやを持ってきたんでしょう。実際、ユルい過剰サービスはなしの、視聴者を選ぶような作品だったからね。
アナ：とても生真面目なドラマだと感じました。
林：鋭いスルドイするどい！ 生真面目に突き詰めていくことによる面白さが、渡辺作品の味のひとつだからね。去年、NHKでやった「今ここにある危機とぼくの好感度について」もとてもよくて、昨年の年間ベスト＆ワーストも今年みたいに開き直ってNHKドラマ推しをやっていたなら、ベスト3に入ってました。
アナ：渡辺さん、TVドラマでは「エルピス」まではNHKにばかり書いていますね。
林：NHKが育てたホンヤ（脚本家）さんですよ、悔しいけれど。パンドラの函を開けて残ったエルピスは、「希望」ではなく「凶兆」とか「厄災」とか解釈されることもあるらしくて、民放には珍しい連ドラの佳作「エルピス」の、その蓋を開けてみたら、まぁいろいろが飛び出していって、底に残ったのはNHKでした……という話なら、そりゃ確かに民放にとっちゃ凶兆とか厄災だわな。
ベスト第3位は？
アナ：では、今年の連ドラ、ベスト3の第3位の発表をお願いします。
林：ありません。
アナ：は？
林：なし、です。2022年は連ドラのベスト3は2位までで、3位は該当なし。
アナ：ええっ。ベストにせよワーストにせよ、2位で打ち止めというのは初めてですよ。
林：初めてだろうが100回目だろうが、今年はNHKの3本とカンテレの「エルピス」以外に、ベストなどという立派な冠をつけたくなるまでのドラマはありませんでした。そういうこと。
アナ：林さんがファンだと公言している阿部寛さん主演の「DCU」（TBS系／日曜21時／1月期）は……ああ、脚本が酷くて泣き笑いしながら見ているとおっしゃってましたね。評価の高い黒木華さんの「ゴシップ ＃彼女が知りたい本当の○○」（フジ系／木曜22時／1月期）も……設定などがユルすぎだと酷評されていました。林さんが長年愛好している「相棒」（テレ朝系／水曜21時／21年10月～22年3月、22年10月～23年3月）は……もう別格扱いで、ランキングの対象外なんでしたよね。
林：アナタも今、「エルピス」以外にワタシが高く評価しそうなドラマを探しあぐねたように、実際、ワタシも今年は結局、高く評価できるドラマを探しあぐねて終わったのよ。
●「競争の番人」（フジ系／月曜21時／7月期）
●「silent」（フジ系／木曜22時／10月期）
●「ザ・トラベルナース」（テレ朝系／木曜21時／10月期）
●「となりのチカラ」（テレ朝系／木曜21時／1月期）
●「ファーストペンギン！」（日テレ系／水曜22時／10月期）
●「元彼の遺言状」（フジ系／月曜21時／4月期）
●「マイファミリー」（TBS系／日曜21時／4月期）
●「インビジブル」（TBS系／金曜22時／4月期）
……あたりは、ベスト10にだったら入れるけれど、ベスト3には入れられない……という複雑な乙女心。
アナ：乙女はどこにも見当たりませんが、複雑さ、難しさはわかります。
林：こういう作品はベスト1位のNHKの3本や2位の「エルピス」と比べると、出来の差が大きいし、じゃあ数字その他で商売として大成功したのかよといえば、そうでもない。だから一緒にベスト3に入れるのは1位・2位の作品に申し訳ないとう気がしちゃってね。それに、作品としての出来でいうなら、こういう民放のドラマに勝るとも劣らないドラマがNHKにいくつかあって、そっちを挙げないとアンフェアになっちゃうし。
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