2022年ドラマ総括 辛口コラムニストが今年は敢えてワーストドラマを選ばない理由(後編)

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企画・脚本がグズグズ

アナ:わからないでもない理屈ではありますね。ただ、安易に量産されすぎていると林さんが批判的な医療モノ、捜査モノの「トラベルナース」や「元彼」「マイファミリー」「インビジブル」が挙がったのにはちょっと驚きました。

林:安パイ企画としてつくりやすい医療モノ、捜査モノをつくらにゃならんという縛りの中で、変わったことやろうという苦闘がうかがえる。そういう意味で、春の高校野球の21世紀枠みたいな扱いです。これが21世紀かよと思うと、涙が出てくるけど。

アナ:ホントに涙ぐまないでください。

林:そういう21世紀枠なんてことを考えなきゃいけないのも、今年の民放プライムタイム連ドラが真冬に着る極寒エアリズム状態だから。主演格のギャラを低く抑えたい局と、それに応えつつ割安な新顔を売り出したい事務所と。そういう皆様による安くて寒いドラマが目白押しだったもん。シリーズもの以外の作品の主演者の顔ぶれを見ると、キムタクとか綾瀬はるかとか松本潤とか西島秀俊とか上野樹里とか波瑠とか、そのあたりを除くと大手事務所の新商品がずらり。

アナ:ヒトがそういう状況なら、せめてホンを磨いてほしいところでしたが……

林:企画や脚本がまたグズグズでねぇ。安易なリメイクやリブート(「六本木クラス」「金田一少年の事件簿」「クロサギ」)とか現実離れの仕方が下手なラブコメ(「恋なんて、本気でやってどうするの?」「ムチャブリ! ワタシが社長になるなんて」「ユニコーンに乗って」その他)とか。もういちいちドラマの名を挙げたくないくらい。

アナ:タイトルなしでも、どの作品について触れているのかは、結構はっきりわかります。

林:ホンを最重要視するなら、これもプライム帯ドラマなじゃないけれど、井上敏樹がメインライターを務める……

●「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」(テレ朝系/日曜9時30分/22年3月~23年2月)

……をベスト3の第3位に入れたいくらい。

アナ:おお、スーパー戦隊モノ!

林:そう。大小問わずのお子様向け東映特撮モノであるにもかかわらず、というより、50年近く続いてきたスーパー戦隊モノだからこそ実現できた爆発的だけれど緻密な企画・設定・脚本で、ホント面白いからさ。

アナ:ネットでも“大きなお友達”方面を中心に、これまでの戦隊モノの常識を覆す作品だと評判になっていましたが、これもホンがいいドラマでしたか。

林:そうそう。安いドラマなら安いドラマなりのつくりよう、盛り上げようはあるのよ、知恵を絞れば。それなのにプラム帯の民放の連ドラの失敗作は、どれも安くて薄くて寒い。芝居させられてる役者さんたちが可哀想になってきて、見てられませんでしたわ。あれを楽しめているファンからすれば、ワタシの方がよっぽど可哀想なんだろうけど。

アナ:……

林:わりと評判のよかった「PICU 小児集中治療室」(フジ系/月曜21時/10月期)も、主演の吉沢亮や脚本の倉光泰子は悪くないのに、一歩下がって眺めると「Dr.コトー診療所」+「北の国から」という企画の根幹が透けて見えるようで残念でした。「ほうら皆さん、大好物の医療モノ+子供モノですよ!」と叫びつつ、絶望的にわかりにくいタイトルにも泣けてさ。あれ、放っておけば、次は「VICU 動物集中治療室」やるよ、きっと。

ワーストドラマは?

アナ:となると……これを尋ねるのが怖くなってきてるんですが……2022年の連ドラベスト&ワースト3、ワーストのほうはどうなりますでしょうか?

林:今年の連ドラのワースト3、こちらは3位からのカウントダウンで発表しましょう。

アナ:ああ、よかった。「22年のワーストは1位だけで、対象は『エルピス』以外の全作品!」などというオチではないかとハラハラしていました。

林:……

アナ:あ。何かちょっと図星……でした?

林:発表します! 今年の民放連ドラのワースト3、3位は該当作なし! そして2位は……「エルピス」以外の全作品! ――と、やりたかったのになぁ。

アナ:すみません。でもやっぱり、そういう全滅系でしたか。

林:ベストのほうの話で触れた「競争の番人」「silent」「トラベルナース」「ファーストペンギン!」「となりのチカラ」あたりは、本当はワーストからは除外したかったのよ。

アナ:そうした作品までワーストに押し込むことに、抵抗や罪悪感はないんですか?

林:あります。ありますあります。でも、ベストに押し込むことへの抵抗よりは少ないし、ワタシみたいなギョーカイの外の影響力皆無の人間による評価であれば、下手に褒めるより下手に貶したほうがまだニッポン連ドラの今後のためになるかなとも思ったのよ。あれで年間ベストと思われたんじゃ、本当に先がないから。

アナ:愛の鞭……ですか?

林:愛の対義語が無関心だとすれば、心ないヨイショと心ないコキ下ろしでは、どちらが無関心に近いのかねぇ。

アナ:急に禅問答を始めないでください。ただ、おっしゃりたいことはなんとなくわかります。しかし……これまでもワースト3に入る作品の数が3以上だったことはありましたが、40本以上が今年のワーストというのは、これまた初めてです。

林:これまでにない不作の年だったのは間違いないからなぁ。来年がもっと酷い年になるとすれば、来年はワーストの第1位に何十本ものドラマを挙げなきゃいけなくなる。

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