女性客も“お座敷遊び”で盛り上がる、有馬温泉「芸妓カフェ」 15年ぶりに十代「新人」も誕生の奮闘記

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前例のない取り組みによって、コロナ禍を克服

 一方で、カフェ営業という前例のない取り組みだからこそ、当初は苦労も多かったと一菜さんは打ち明ける。他ならぬ有馬芸妓たちが異を唱えたのだ。

「認知度を上げるためにやっていることなので、薄利多売は覚悟の上です。ですが、芸妓さんはみんな個人事業主ですから、『私はカフェをやるために芸妓になったんと違う』という人も少なくなかった。インバウンドのお客さんを含め、たくさんの観光客の方に来ていただける場所になっていたので、みんなで盛り上げたいという気持ちだったのですが」

 乗り気ではない人はカフェには出なくてもいい――。お座敷だけで仕事を続けたい芸妓の気持ちも尊重するため、そうした方針を掲げていたというが、「お座敷だけでやっていた人たちは去ってしまって」と一菜さんは語る。新型コロナが襲来。有馬温泉から人が消え、収入が絶たれたことで変化が起きた。

「お座敷はもちろん、カフェも休業です。ですが、私たちはカフェで3~4年働いている実績があったということで、労務士さんから『(カフェで働いていた)皆さんは毎月の給料補償がもらえる』と伝えられました。少しの額でもいただけると聞いて助かりました。一方、カフェに参加しなかった人たちは収入がなくなってしまったため、『芸妓は続けられない』と」

 何がどうなるかわからないとは、このことだろう。緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の状況下では、県外から唄や踊りの師匠が来られなくなったこともあり、感染リスクを考慮して「お稽古もまったくできなかった」。転職をするため、若い芸妓たちも去っていったという。有馬温泉観光協会も、ルーツである有馬芸妓を守るため下支えしたが限度があった。

「私たちは単にお座敷で接待しているだけではなく、唄・踊り・お囃子といった芸事を披露しています。コロナによって、そういった文化が痩せてしまった可能性があることをもっと知ってもらえたら」

「娯楽」だけでなく「癒やし」の存在

 今年の夏ごろから、ようやく有馬にも活気が戻り、「芸妓カフェ 一糸」にも観光客が戻ってくるようになった。唄や踊りを見ることができるだけでなく、芸妓の持ち物(かんざしや扇子など)に触れられたり、お囃子の楽器を演奏できたりできるとあって、女性のグループ客も多いと話す。

「お座敷には、ほとんど女性客はいません。ですから、カフェをするにあたって、女性のお客さんに楽しんでいただけるのか心配でした。でも、カフェでお座敷遊びの『金毘羅船々(こんぴらふねふね)』などを一緒にやると大盛り上がりするんですね。私たちもとても楽しいんです。女性にとってもリラックスできる場所になれたらと思います」

 湯女にルーツを持つ有馬芸妓は、「娯楽」だけではなく「癒やし」の存在でもあった。令和の今も、それは受け継がれている。苦難を乗り越えた芸妓たちのお囃子が、「芸妓カフェ 一糸」からは聴こえてくる。

我妻 弘崇(あづま ひろたか)
フリーライター。1980年生まれ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターに。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

デイリー新潮編集部

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