韓国生保がドル建て債券の償還延期、一気に高まる通貨危機の恐怖

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梨泰院事故が左派の追い風

 10月29日夜、巨大な火種が新たに発生しました。ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で156人が圧死した事故です。政府の不手際は明らかで、左派は尹錫悦政権の打倒運動に拍車をかけています。

 まず11月5日、左派はソウル市内で「梨泰院事故犠牲者追悼ろうそく集会」を開きました。参加者は警察発表で9000人。左派は毎週末にろうそく集会を開いて尹錫悦大統領の弾劾を求めてきましたが、梨泰院事故で一気に活気づきました。

 今後、政権の不手際が明かされるにつれ、ろうそく集会がさらに盛り上がるのは間違いありません。尹錫悦大統領が「金融」に頭をめぐらす時間と心の余裕はさらに減るでしょう。

 ただ、外国の投資家は「韓国投げ売り」には至っていません。国際金融界に詳しい愛知淑徳大学の真田幸光教授に聞くと、次のように分析してくれました。

・韓国でこれだけ騒ぎが起これば普通なら、国際金融界はもっと騒ぐはずだ。だが今回、そうはならない。それは「韓国でほころびが表面化すれば、混乱が世界に広がる」との不安に陥っているからだ。
・国際金融界をリードしてきた英米の金融機関は今、自信を失っている。ロシアを金融で締め上げるはずが、見事に失敗したのも自信喪失の原因の1つだ。

薄氷の上でケンカする韓国人

――では、1997年や2008年のような「韓国危機」は起きないのでしょうか。

鈴置:それは分かりません。真田教授も「いつ韓国市場が売られても不思議はない」とも語っています。誰かが「韓国売り」に走れば、皆が一斉に投げ売りする、きわどい状況にあるのは間違いないからです。

 1997年の通貨危機も金泳三(キム・ヨンサム)政権の末期に政局が混迷する中、司令塔の不在により起きました。政治の混乱が経済危機を呼ぶというパターンは「韓国の定番」なのです。

 韓国の政界を見るたびに、薄氷の張った湖上を歩く人々を思い出します。誰かが氷を踏み破れば、皆が水の中に落ちてしまう。というのに、人々は相手を陥れようと氷上でつかみ合いのケンカを始め結局、氷を破ってしまう。

――「ケンカすれば、皆が水に沈む」と思わないのでしょうか。

鈴置:相手を倒すことに夢中になって冷静な判断ができなくなっているのです。『韓国民主政治の自壊』の「第2章 あっという間にベネズエラ」でも詳述しましたが、韓国の政治家たちは「相手を牢屋に送らない限り、自分が送られる」状況に陥っています。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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