韓国生保がドル建て債券の償還延期、一気に高まる通貨危機の恐怖

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「興国生命の経営は健全」と声明

――韓国は大丈夫でしょうか?

鈴置:国際的な信用を大きく落としました。「新宿会計士の政治経済評論」というサイトを主宰する債券の専門家は「韓国債券市場発の『ドル債コールスキップ』騒動の衝撃」で、以下のように指摘しました。

・もちろん、コールのスキップ自体はデフォルトでもなんでもありませんが、それと同時に、発行体がコールをスキップせざるを得ない状況に追い込まれたという事態は、通常、「発行体がリファイナンスに苦慮している」というメッセージを債券市場全体に与えかねません。

「新宿会計士」氏は自己資本規制と永久債の関係や、スキップの危うさについても「【総論】金融機関劣後債『コールのスキップ』の深刻さ」で分かりやすく説明しています。

 韓国政府はあわてました。翌11月2日、日本の金融庁に相当する金融委員会が、企画財政部、金融監督委員会と連名で「興国生命の早期償還権を行使しないことに関し」との声明を発表しました。要点を翻訳します。

・興国生命は早期償還権を行使しないことの影響と、早期償還による資金状況及び海外債券借り換え発行の与件を総合的に考慮する必要があった。
・興国生命の収益性など経営実績は良好であり、契約者に対する保険金など全く問題がない会社である。

 保険の契約者がパニックに陥らないよう、今回のスキップが合理的であり、興国生命も健全経営の状態にあると強調したのです。

外債発行の延期が相次ぐ

――政府発表で動揺は抑えられましたか?

鈴置:効果はありませんでした。11月7日時点で契約者の取り付け騒ぎは報じられていません。しかし、韓国のドルの借り入れがいっそう難しくなったとメディアは悲鳴をあげました。つまり、通貨危機の可能性が一気に高まったのです。

 11月2日の朝鮮日報は「13年ぶりの永久債の早期償還不発…興国生命、高金利避けようと延期選択」(韓国語版)で「金融市場では一種の不文律となっていた早期償還が不発になるほど市場が委縮したということだ」と異常事態であると訴えました。

 同じ日のハンギョレの「興国生命、5億ドルの早期償還不発に…債券市場の不安は”一波万波”」(同)も「韓国企業全般に対し海外からの投資心理が凍りつく可能性を排除できない」と、興国生命の問題に留まらないと警告しました。

 韓国経済新聞も同日、「5億ドルの早期償還不発…今回は興国生命発“外債危機”」(同)で厳しい現状を描写しました。以下です。

・業界は今回の事態で、韓国企業が発行する外債に対する信頼が毀損されうると憂慮する。外貨調達を準備中の企業も相次ぎ非常事態に直面した。
・韓国投資証券は外債発行の日程の延期を決めた。ハナ銀行と新韓銀行はカンガルーボンド(豪ドル建て債券)の発行を推進中だったが、投資家の募集に難航している。
・ハンファ生命保険とKDB生命保険は2018年に発行した外貨建て永久債の早期償還の満期を来年上半期に控える。発行規模はそれぞれ10億ドルと2億ドルに達する。NH投資証券のチェ・ソンジョン研究員は「興国生命の永久債早期償還の未実施で韓国の債券に対する投資心理が当分の間、委縮する」と語る。

 11月3日にはDB生命保険(KDB生命保険とは別の会社)にも「コールのスキップ」が飛び火しました。DB生命がスキップした債券は外貨建てではなくウォン建てで300億ウォンと小ぶりですが、金利が上昇する中、永久債の新規発行が難しくなった、という点では同じです。

 韓国銀行は米ドルの利上げに追従してウォンの金利を引き上げてきました。放置すれば金利差から資本逃避が起きて、1997年や2008年の時のような通貨危機に陥るからです。

ウォン資金も目詰まり

――韓国の保険会社はドルだけでなく、ウォンの確保にも四苦八苦しているのですね。

鈴置:保険会社に留まりません。マンション建設業者への有力な貸し手である証券会社は、不動産バブル崩壊とともに資金不足に陥っています。韓国銀行が6兆ウォン規模の特別融資に乗り出したほどです。

 ただ、これを受け入れると「危ない会社」との烙印を押される危険もあって、手を挙げる証券会社は1社も出ていません。韓国経済新聞の「韓国銀行が6兆の支援に出たが、レポ取引を要請する証券会社は“ゼロ”」(11月4日、韓国語版)が報じました。

 カネ詰まりはすでに一般の事業会社にも及んでいます。朝鮮日報の「超インフレ・ウォン安・高金利の3角波動…5大グループまで“金脈硬化”」(10月26日、韓国語版)は以下のように報じています。

・電気自動車用バッテリーを製造するSKグループのSKオンは上場のための資金調達に苦労しており、調達規模を当初計画の4兆ウォンから2兆ウォン台に縮小した。
・LGグループの中核企業[で通信会社]のLGユープラスは1500億ウォンの社債発行を計画したが、1000億ウォン程度の応募しかなかった。信用等級はAAで、同社の社債が札割れになったのは創業以来、初めて。
・ハンファグループの主力企業で[化学・素材・流通を手掛ける]ハンファ・ソリューションは1500億ウォンの社債発行を目指したが、130億ウォンしか集まらなかった。

 朝鮮日報の「財界2位のSKも資金調達に死に物狂い…長期CPを初発行」(11月3日、韓国語版)は、サムスングループに次ぐSKグループの持ち株会社が社債を発行しようにも機関投資家が慎重になり札割れが相次いだため、証券会社が引き受けてくれるCP(コマーシャル・ペーパー)を発行し始めたと報じました。普通、CPは1年以内の満期ですが、3-5年ものとして発行するのですから異例です。

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