里見香奈五冠は初の女性棋士に黄色信号 先輩棋士は「1つ勝てば3勝することもある」

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「純粋に将棋が好き」

 女性初の棋士誕生には、残り3戦を全勝するしかない。

 追い込まれた里見と同じく振り飛車党の名棋士・福崎文吾九段(62)=元十段と王座=は、「試験官になった四段の男性棋士は若くて勢いがいい。負けても失うものはないとはいえ、負ければずっと言われるので全力で向かってくる。里見さんはプレッシャーもあってか、6九角を打たれた時、時間にも追われて金を打ってしまい、今度はその金を狙われた。普通に対応しておけば、岡部四段の穴熊は崩れかけて金2枚だけだったので、反撃すれば十分、詰ましに行けたはず。よく守っていたのに残念。自分の将棋をよくわかっている里見さんは敗着もすぐに察したでしょう。野球で投手が失投した瞬間に『しまった』と思うのと同じですよ」と振り返る。

 そして福崎は、「でも彼女は女流タイトル戦も何度も戦った歴戦の人。カド番も経験してきたでしょう。五番勝負は2敗しても1つ勝てば勢いで3勝することもよくあるんです。苦しくはなったけど自分を信じて次からぜひ頑張ってほしい」と応援する。

 感想戦の後、岡部が去った対局場で主催者の単独インタビューに答えた里見は、「中盤は難しい将棋でしたが(中略)一番大事なところで間違えてしまった。玉頭が弱い所だったのでそこの戦いにしてしまったけど、戦場を縦ではなく横から受ける感じで対応していかなければならなかった。大事な受けをまちがえたのがすごく残念」とやはり悔しそうだった。

 それでも意気込みを聞かれると、「たくさんの方に注目されて光栄です。暖かい声援が励みになるので、しっかりと修正して挑めるようにしたい」と前向きだった。対局日は未定だが、次は狩山幹生四段(20)との対戦となる。里見は今年3月に竜王戦の予選トーナメントで狩山と一度対局して敗れたが、200手近い大熱戦だった。

「奨励会に編入した時(2011年)は、棋士になることだけを考えてやってきたわけなんですけども、今はどちらかというとそういうわけではなく、もう純粋に将棋が好きなので、少しでも自分の棋力向上を目指して、強い方々と対局したいという思い、ただそれだけです」(前掲誌のインタビュー)と語る里見。敗戦を糧にして戦ってほしい。
(一部、敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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