「温かい目で見て」朝青龍を擁護した大鵬の品格 覚醒のきっかけはライバル・柏戸(小林信也)

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朝青龍を擁護

 大鵬は双葉山の69連勝に迫る勢いで連勝を重ねた。前頭筆頭の戸田に敗れ、45連勝で終わった相撲は後に“世紀の誤審”と物議を醸した。土俵際、押し出される前に戸田をはたきこんだ。行司は足が残っていたと大鵬に軍配を上げたが、物言いの末、差し違えとなった。大鵬は親しい記者には不満を漏らしたというが、公には一切抗議せず、怒りも表さなかった。これぞ横綱の品格と、大鵬はいっそう名声を高めた。

 私はある取材に同行し、大鵬に会った経験がある。すでに部屋を譲り、定年退職を控えた時期だ。

 印象に残っているのは、横綱・朝青龍の“品格”に話が及んだ時の、大鵬の答えだった。

「心技体と言いますが、技と体があれば、心は必ず付いてきます。急がず、温かい目で見てやってほしい」

 道徳論や精神論で人をとがめない。それが大鵬だった。朝青龍も大鵬に助言を求めた時期があった。結局、大鵬を裏切る形で角界を去ることになった。

 いま大鵬の遺伝子を継ぐ三力士が夢の途中にいる。三女と元関脇・貴闘力の間に生まれた大鵬の孫たち。長男はプロレスラー。次男の納谷(24歳)と四男・夢道鵬(21歳)は幕下で奮戦中。189センチ、176キロの三男・王鵬(22歳)はすでに幕内。彼らの才能開花が楽しみだ。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2022年9月15日号掲載

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