韓国人がウォンを売り始めた 政府が「通貨危機は来ない」と言うも信用されず

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 韓国通貨市場の地合いが変わった。2度に亘る通貨危機の暗い記憶を思い起こした人々が、ウォンをドルに替えているのだ。韓国観察者の鈴置高史氏が来るべき「韓国危機」を読む。

8月は過去最大の貿易赤字

鈴置:9月に入り、韓国各紙の社説が一斉に通貨危機への警鐘を鳴らしました。8月の通関統計で5カ月連続、過去最大の貿易赤字を記録したからです。1997年と2008年の通貨危機はいずれも貿易赤字の最中に発生した。韓国人はその苦い経験を思い出したのです。

 9月1日発表の「2022年8月の輸出入動向」(通関統計)によると、同月の輸出は前年同月比6・6%増の566・7億ドル。輸入は同28・2%増の661・5億ドルで、貿易収支は94・7億ドルの赤字でした。

 史上最大の赤字の原因は輸入の急増です。日本と同様に原油などエネルギー価格の上昇に直面したのです。ただ、韓国の場合、それに加えて「中国」と「半導体」という赤字要因が発生した。そこでメディアが危機感を募らせたのです。

 朝鮮日報の社説「66年ぶりに最大となった貿易赤字、経済体質を変えよとの信号だ」(9月2日、韓国語版)のポイントを訳します。

・[巨額の貿易赤字は]エネルギー価格のせいだけではない。エネルギー・中国・半導体という3大要因が同時に悪化し、韓国経済の脆弱さが一度に噴出したためだ。
・対中輸出が5・4%減少し、輸出の孝行息子品目である半導体の価格が26カ月ぶりに低下した結果、2ケタで伸びてきた輸出が1ケタに鈍化したのだ。
・我が国の輸出の25%が中国市場に依存する。輸出1位の品目である半導体は全体の20%を占め、半導体の40%を中国に輸出するという偏向ぶりが深刻だ。

・新型コロナ封鎖で中国向け輸出は減るというのに、中国からの輸入は一向に減らず、韓中修好30年間、ずっと黒字だった対中貿易収支が一気に4カ月連続の赤字となった。

 韓国の主力産業である半導体の市況悪化が輸出の先行きに暗い影を落としています。さらには中国産業の国産化が進展し、韓国から輸入していた中間財を自分で作るようになりました。それどころか、そうした中国製品の対韓輸出が増えています。

 貿易赤字が通貨危機を呼ぶとの危機感を念頭に、韓国の貿易黒字はいつまで持つか分からないと朝鮮日報は訴えたのです。

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