韓国人がウォンを売り始めた 政府が「通貨危機は来ない」と言うも信用されず

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核心は普通の人のウォン売り

――「自国通貨売り」は韓国でも起きるのでしょうか?

鈴置:朝鮮日報の社説をもう一度、読んで下さい。「国内の一般投資家が海外の株式・債券の投資を増やしており」とあります。すでに国民の自国通貨売りは始まっているのです。

 2022年第2四半期の短期外債は1838億ドル。2021年第3四半期の1635億ドルと比べ、200億ドル増えています。4000億ドル以上の外貨準備から考えれば小さな伸びに見えますが、国民がパニックに陥れば、一気に膨らむでしょう。

 実際、2020年春に新型コロナによる通貨危機を懸念したウォン売り・ドル買いが起きました。韓国の検察関係者によると、金融当局の高官もウォン売りに加わっていたそうです。韓国銀行が死に物狂いでウォンを買い支えていた時というのに。

 この時は世界的な金融緩和で外からホットマネーが入り込んで、事なきをえましたが、今回は逆に米国が猛烈に引き締めている最中。韓国に逃げ道はありません。

 朝鮮日報が真に問題にすべきは「短期外債の急増」という結果ではなく、それをもたらした「国民のウォン売り」だと思います。もっとも、それを正面から書けば、国民こぞってのウォン売りが始まるのは間違いありません。だから朝鮮日報も「短期外債の急増」という的をずらした指摘にとどめたのでしょう。

激化する不動産バブル

――不動産バブルの崩壊はどうなりましたか?

鈴置:不動産バブルがはじけた韓国 通貨売りと連動、複合危機に」で指摘したマンション価格の急落は止まりません。グラフをご覧になると分かりますが、下げ幅も日増しに大きくなっています。

 韓国紙もマンションの暴落を報じ始めました。ただ、これが通貨危機につながるとの指摘は、依然として見当たりません。また、この暴落が生産年齢人口の減少による構造的な現象との分析もあまり見ません。

――生産年齢人口の減少がバブル崩壊を呼ぶ?

鈴置:日本でも1990年代に発生したことです。不動産バブルの崩壊は多くの金融機関の破綻を呼びました。

――韓国でも同じことが起こる?

鈴置:韓国民主政治の自壊』の第4章第3節「ついに縮み始めた韓国経済」で詳述しています。韓国では貿易収支の悪化による通貨危機と、人口減による金融危機が同時並行的に鎌首をもたげているのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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