なぜ米空軍の訓練で「100年前の中国の地図」が使われる? 習近平の妄執の背景にある「国恥地図」

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「次は台湾」の恐怖

 ところが、中国政府は今でも、この地図が本当の「支配地域」だと本気で思っている。というのも、以下のような体験に基づく。

 私が国恥地図の存在自体を知ったのは、1997年「香港返還」の時だった。当時、国恥地図の復刻版が多数出回り、北京や香港でブームになっていた。中国人民出版社は小冊子「近代中国 百年国恥地図」を出版し、香港返還を絶好の機会と捉えて、「アヘン戦争で奪われた香港を取り戻した」と、大々的に宣伝した。中国共産党の古参幹部のひとりが、「これで香港は済んだ。次は台湾だ!」と言うのをたまたま耳にして、思わず身震いしたのを覚えている。

 中国では、1980年代に歴史地理学が確立し、伝統的な「文化的中国」という概念を現代政治と結び付けることが、政治方針の理論的裏付けとなった。華僑が多数生活している東南アジア諸国は、「中華帝国の文明が光り輝いていた国や地域」であるから「文化的中国」であり、そこは「奪われた土地」なのだから、中国が経済発展した今こそ「本来の姿」を取り戻すべきだと考えている。

「失地回復」に執念を燃やしているのが現代中国

 アヘン戦争以来、列強に不平等条約を強要され、領土を租借地化、割譲させられ、国民が不当に虐げられた恥辱を雪(そそ)ぐことこそ民族の誇りの回復だと本気で信じているのである。為政者としては、そうした一体感を持ち出さなければ、あの広大な国家を統治することはかなわず、常に「外部の敵」を作り出さねばならないこともあるのだろう。

 一言で言ってしまえば、100年来の「国恥意識」で「失地回復」に執念を燃やしているのが現代中国である。米軍が国恥地図を使って中国分析を行う理由は、まさにこの「中国の本質」を見極め、「台湾侵攻」の本気度を測るための理想的なツールだからではないだろうか。

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