日本は「中進国」に成り下がった? 給料を上げる“逆転の一手”とは?

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必要なのは国家戦略

 たとえばシリコンバレーです。前述の通り、80年代に同地の半導体産業は、日本企業によって大打撃を受けましたが、現状はGAFAMと呼ばれるモンスター企業が軒を連ねています。

 シリコンバレーが復活できたのは、軍・官・民・学の四者が一体となって成長を続けたからです。

「民」は当時のレーガン大統領に働きかけて半導体協定を結ばせ、一方、アップルやグーグルなどの情報産業が現れて世界制覇し、経済を成長させました。

 こうした大企業誕生の手助けをしたのが「学」、特にスタンフォード大学でした。この大学は優秀な人材の宝庫で、有力なベンチャー企業に投資して儲けようとする、目利きのベンチャーキャピタリストが参集していました。法律や財務上のサポートが必要なら、すぐれた弁護士や会計士が大勢います。起業家にとって、これ以上育ちやすい環境はありません。

 つまり、スタンフォード大学は「エコシステム」、すなわち生態系にたとえられるような、起業家たちが徹底的に支援される環境を作り出していたのです。

 そして、すぐれた企業が誕生した際、支える存在として「軍」があります。ベンチャー企業が生み出した技術や製品を「軍」が買い上げ、「民」の技術をともに育てます。加えて「官」が税制の優遇措置などを通して、これらの企業の成長を支援します。

 こうして軍・官・民・学が一体となって成長を続けた結果が、いまのシリコンバレーの隆盛につながっています。その背景には、アメリカの揺るぎない国家戦略があったのです。

中国が「罠」を突破できた理由

 また、中国も逆転に成功しています。

 トウ小平時代に改革開放路線を打ち出した中国は、経済特区を設けるなどしてめざましい高度成長を遂げました。同時に、アメリカなどの大国への輸出も重ねていきます。アメリカにしても、中国の広大な土地や安い人件費が魅力で、中国で大量生産してアメリカに輸出させました。

 しかし経済が発展すれば賃金も上昇するので、アメリカにとってはメリットが失われ、中国の成長は頭打ちになります。そのタイミングでトップになったのが習近平氏でした。当時、それまで年率10%程度だった経済成長が7~8%という頭打ちの状況で、「中進国の罠」といわれました。そして「罠」を突破するためには、自国でのイノベーションが欠かせません。

 日本は70年代、トヨタ自動車をはじめ自動車産業のイノベーションで「罠」を突破しましたが、中国は情報化戦略によるイノベーションで、突破を果たしました。その後押しになったのは、税制優遇措置など政府の政策です。中国ではIT企業の税率は、それ以外の企業の半分ほどだといわれ、その結果、アメリカの「GAFAM」のような世界有数の企業群「BATH」(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が誕生しました。

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