「コレ、同じ日本か?」 佐賀県唐津の見知らぬ初老男性からかけられた「衝撃の言葉」(中川淳一郎)

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 佐賀県唐津市に拠点を移してから、世界観が変わったというか「コレ、同じ日本か?」と思うことが時々あります。それは知らない人が声をかけてくる、という点です。やたらと子供たちが「こんにちはー!」と声をかけてくるんですよ。先日、ニュージーランド人のジャックが東京から来たのですが、白人でブロンドの彼に対し、小学生の少年たちが「ハロー!」と言ってくる。

 ジャックは「びっくりした。東京で声をかけられることなんてないから!」と言っていました。彼が白人だから声をかけられたという面もあるでしょうが、なぜか私のような日本人にも唐津の少年はあいさつしてくる。

 もちろん、私のことを本誌(「週刊新潮」)連載やツイッター等で知った福岡の方や唐津の方から突然声をかけられ「週刊新潮の連載、読んでます!」などと言われることはあるものの、まったく関係性のない人からも声をかけられるのです。

 先ほどもコンビニへ妻と行ったのですが、草刈正雄似のダンディーな男性がいきなりニッコリと笑ってこちらに寄ってきました。

「アンタ、ハワイば行ったと? よう日焼けしとるね」

「玄界灘でイカ釣りしました」

 なんでこんな会話になるのか分かりませんが、妻に気付くと「奥さんかい?」と言います。そこからの同氏の発言がもうワケが分からない。こんなことメディアで発言したら大炎上間違いなしですが、再現します。

「アンタ、子供はおるのか? あぁ、おらんのね。子供は早くつくった方がいい。アンタは細いから、アチラの方も強いだろう。ビシッとハッスルする日を決め、奥さんを攻め続けたらすぐに子供なんて生まれるものじゃ。ワシの息子も20歳の時に子供をつくり、もう2人もおる。子供をつくるのは早ければ早い方がいい。アンタたちも早くつくりんしゃい。若いけん、すぐできるばい」

 我々は作り笑いを浮かべ「ナイスアドバイス、ありがとうございます!」と言ったのですが、そもそもの「ハワイ」の唐突さに困惑し、我々が夫婦だと知ると子づくりの話に突然持っていく。

 戦後、働き手が必要な農村での会話だったら分かるのですが、もう2022年の話で、まがりなりにも人口11万人の中規模都市でまさかこんな会話になるとは! いや、私自身はこの男性が親切心から声をかけてきたのは理解しています。つーか、オレ、もうすぐ49歳で全然若くねーぞ!

 いわゆる「声かけ事案」ってあるじゃないですか。警察が発表する不審者情報です。過去には「女子児童に『もう家に帰り』と老人が声をかけ、帰る児童をその場から見守る事案」「『月が綺麗だね』中年男性が女子高生へ声をかける事案」などがありました。

 今回の件は、我々だから驚かなかったものの、もしも繊細かつ子供がいないことに悩む夫婦だったら「声かけ事案」として警察に通報していたかもしれません。

「初老の男性が中年夫婦に対し『ビシッとハッスルする日を決め、奥さんを攻め続けたらすぐに子供なんて生まれるものじゃ』と声をかける事案」が発生!

 間違いなく匿名掲示板「5ちゃんねる」では大盛り上がりになる未来が予想できます。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年8月11・18日号掲載

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